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アジア 11年前

岡田武史の挑戦 日本人監督の可能性とは?【サッカー批評 issue58】

text by 二宮寿朗 photo by Kazuhito Yamada

物事を変えるにはスパッと変えなければダメ

 後日、岡田はこう語っている。「物事を変えようとしているときは順次に変えてもダメ。ここで変えるぞということを、チームにはっきりと理解させないと意味がない。ひとつずつ変えていったのでは本大会に間に合わない。だからスパッと変えた」

 決断とは私心なく無心で考えに考え抜いた末、自分ひとりで全責任を持って為すこと。一度決断したら顧みることなく迷わず突き進み、岡田は賭けに勝った。決断慣れしているからこそ勝負に出られたのだ。

 決断というものは何よりタイミングが重要になる。早すぎたり遅すぎたりすると意味がない。岡田にはそのタイミングを測る絶妙の感覚がある。目の前にあるチームづくりに集中する一方で、外側から客観的にチームを眺められる確かな視点があるということだ。

 ここで一例を紹介しよう。

岡田武史を読み解くポイント 2.状況把握力

 Jリーグ2連覇を果たす横浜F・マリノスでの2年目のことだ。縦に速くゴールを目指すリアクションサッカーで1年目に両ステージ制覇を果たしたが、岡田は一転して支配率を高めてポゼッションサッカーを試みようとした。

 しかしA3杯、ACLと過密日程の影響もあって転換がうまくいかず、ジェフユナイテッド市原との第2節で大敗したことをきっかけに元のやり方に戻してしまった。

 どこまでなら手遅れにならないか、どこまでなら勝負を懸けられるのか。流れを正しく読み、抜群のタイミングで方針を転換させた。

 南アフリカW杯を目指した過程でもそれはあった。2008年3月の南アフリカW杯アジア地区3次予選のバーレーン戦(アウェイ)。前任者イビチャ・オシムの流れを踏襲してメンバー構成を変えずに臨んだが、まったくいいところなく0-1で敗れてしまった。

 岡田はこの敗戦を機に「前線からのプレッシング」「素早いパスワーク」などのコンセプトを打ち出し、長友佑都や香川真司ら新戦力の発掘に力を入れた。長谷部、遠藤保仁のボランチコンビを誕生させたのもこのタイミングである。次に行われる6月の3次予選オマーン戦こそが何よりも重要だと認識し、選手にはこのように伝えてハッパを掛けた。「W杯予選は何回かヤマが訪れるものだ。次のオマーン戦が一番大きなヤマかもしれない。もしこのヤマを乗り越えることができたら、俺はW杯に行けると思っている」

 単なる3次予選の1試合とは捉えていなかった。

 そのオマーン戦に日本は3-0と快勝。これ以降、最終予選を含めて一度も負けることなくW杯行きを決めている。この点からも岡田の読みは当たっていたと言える。

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