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独占インタビュー 西野朗『超攻撃の美学、勝負師の哲学』(後編)【サッカー批評issue 56】

『ガンバ・スタイルを築き上げた指揮官の回想』
昨季でガンバ大阪の監督を退任した西野朗氏。10年におよぶ長期政権の中で築き上げた勝負師としての哲学はいかなるものなのか。今だからこそ話せることがあるはずだ。氏を直撃した。

text by 永田淳 photo by Kenzaburo Matsuoka

【前編から続く】

勝っている状況からなぜさらに攻め続けるのか

――監督としてはヨハン・クライフ、フース・ヒディンクがお好きということです。

「クライフはただただ好きで、監督になっても変わらなかったからね。最初は監督になるタイプではないかなと思っていたけど、監督になっても同じようにというか、さらに激しくアタッキングサッカーを追求していた。だから、選手で憧れて、指導者で憧れてという感じ。スペクタクルなサッカーを目指してブレずにやっていたから、今でもあのサッカーは一番好き。

 一過性ではなくて、本当にこだわって攻撃的な選手で構成していたから。ヒディンクは駒を連れてくるのではなくて、ある駒をいつも攻撃的に変えていくということが好きな理由。韓国代表を率いていた頃のやり方、姿勢は影響を受けた。チームに常に強い選択を与えていくような、自分で仕掛けるタイプというのが好きだね。でも、あくまで自分の考えだけど、ライン際まで頻繁に出てくるような監督は好きじゃないね。許せないよ(笑)」

――以前、試合中に「クライフやヒディンクだったらどうするか」と考えることがあるとおっしゃっていました。

「采配に関しては、ヒディンクが頭をよぎるね。日韓W杯の時のように、後ろが2人になってしまっても攻めにいくとか、いろいろなことを考えながら『そうそう、あれだあれだ』と。相手の監督を見ながら、動く前に自分がカードを切りたいなと思うこともあったね」

――西野さんは大舞台になればなるほど交代策も当たり、「持っている」とよく言われますが、それはクライフやヒディンクが降臨しているだけでなく、やはり日々選手を観察していることがつながっているのでしょうか?

「日頃からイメージはすごくしている。劣勢からどう良い状況にするかと考える自分も好きだし、勝っている状況でもそれで終わらせない自分も嫌いじゃない。2-0で勝っている試合で、選手はそのまま終わって欲しいと思っているかもしれないけど、1点取られたとしても4-1にするような試合をしたい。そういう贅沢なプランを試合までに立てる。

 そこで今調子の良い選手、まだ試合に出たことのない選手が入ってさらに活性化して得点に絡むというイメージを膨らませる。『こうなったらいいな』『選手が自信を持てたらいいな』と。それが思い通りになると、昨季の柏戦(第23節)での大塚(翔平)みたいなことになる。一番大事な首位攻防戦で初めて出して、相手に当たりながらもゴールを決めた。偶然に見えるかもしれないけど、自分の中ではあれもあり得ていたことなんだよ。そういうイメージがあった。『翔平が何かやるんじゃないか』ということを試合までの間に感じた。

 試合中の采配について、プラスをさらにプラスにしていく起用というのは、簡単といえば簡単。難しいのは逆境をどうひっくり返すか。それはシビアに考えなきゃいけない。ヒディンクやカペッロの話を聞いたりして考えるのは、『どうかな、どうかな』と思うんだったら、動かした方がいいということ。監督が選手交代をするのはなぜか60分あたりからでしょ? それには『そこまで待ってダメだったら代えよう』という考えがあるんだと思う。

 ただ自分は気が短いからなのか、待てない。ガンバでの最初の頃は我慢、辛抱ということも考えてはいたけど、変わった。90分間スペクタクルにやりたいと思ったら、どんどん変化させていかなきゃいけない。それが必要だと感じたら変えていくという考えに切り替わっていく自分がいた。辛抱して『やってくれるだろう』と思うより、辛抱しても『やってくれない』と思った方が良い、と。

 あと、自分の中では浦和と戦った06シーズンの天皇杯決勝のことを教訓にしている。あの試合は、決勝戦でこんな試合はなかなかないなと思うぐらい圧倒して、マイナスな部分がないぐらい完璧にやっているように感じていた。ただ点が入らないだけ。その時は頑として『このメンバーで入れなきゃダメだ』と思った。あの時の無駄なこだわりは教訓になっている。82分に永井雄一郎にゴールを決められて負けたけど、失点後もメンバーを代えなかった。決勝戦でまさかの交代なし(笑)。ヒディンクに影響されたりはしていたんだけど、頑固なところもあってそんなことをしてしまった。自分の決断の大きさを感じたし、常に柔軟に物事を決断していく力を持たなければいけないなと思った」

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