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サッカーを遊ぶ南米、サッカーを遊ばない日本(前編)

text by 植田路生 photo by Kenzaburo Matsuoka

孫とおじいちゃんがサッカーで口論

――うまい人しか練習させない、と。

「もちろんですよ。だけどブラジルも今、ちょっと環境が変わってきた。町が大きくなって子供たちが遊ぶ場所が無くなったんです。10年前くらいからかな、サッカースクールが始まったんです。昔はなかったんですが、あのリベリーノがスクールを持っているんです。それでも彼はそこでゲームしかさせない。『みなさんの子供たちが遊ぶところがないから、遊ぶ場所を僕は提供しているんだよ』と。だから金を取っている」

「僕もペルーでサッカーをしたときに、そこのスクール生がすごく多くて千何人もいた。車もいっぱい通るようになって、ストリートでサッカーができないから(クラブが)場所を提供している。それがすごく流行っているんですよ。どんな内容でやっているのかなと思ったら、本当に遊ばせるだけ。3対3だったり、4対4だったり、最後に11対11とか、下手をしたら13対13で終わりとか。ゲーム、ゲーム、ゲーム。でも子供たちは本当に納得して帰りますよ。そして、『いい』と言われるスクールの中では、すごく経験のある人が指導をしている」

「でもさ、面白いと思うのが、日本でよく使う『教える』って言葉。僕はサッカーは教えるものじゃない、といつも言うんです。教えることができたら、誰でもメソッドがあって、そいつがうまくなったらお金持ちになっちゃうもんね。だから、私たち指導者がいろんなもの、場所を与えて知識、情報を与えることができる。この方がいいんだぞ、この道もあるんだぞ、って言うと選手はそれを自分で考えて選ぶわけ。

 サッカーの一番面白いところは、同じ局面でも、同じ時間でも、同じ相手でも、選手によって考え方が違うこと。ブラジルは昔からサンバとサッカーは学校で教えてくれない。自分で覚えるかどうか。いろいろな覚え方があって、上達の仕方がいろいろあって、うまいかどうかは周りが評価するんです。僕、先週までポルトガルにいたんだけど、もうあちこちでサッカーの話ばっかりです。小さい子も聞いているわけ。だからみんな小さなときから自分のサッカーの考え方をしっかり持てる」

「ブラジルとかアルゼンチンに行くと土日、一日中TVでサッカーが流れていますね。家だったらピザでも食べながらお父さん、おじいちゃんに、すごく深い、サッカーのレベルの高い話をずっと刷り込まれて。だけど、クラブに行ってもマリーニョさんが今言ったくらいしか教えてくれないんですよ。いいレベルでサッカーができないと、一生練習しないで終わる人だっているんですよ。でも彼らは選手になる権利はないのに、すごく深いサッカー知識はみんな持っているんですよ」

「誰でもサッカーの話ができるんだ。だからときどき家族で話しているときに孫がおじいちゃんと口論!」

「サッカー観で?」

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