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在日と帰化 アイデンティティと格闘する在日フットボーラーの軌跡(前編)

在日コリアンは心の中で格闘する。自分のアイデンティティはどこにあるのか、と。それゆえに「帰化」への思いは複雑だ。彼ら自身の葛藤と戦いの軌跡を在日記者が描く。

text by 河鐘基 photo by Kenzaburo Matsuoka

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目に見える存在になった在日コリアン

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李忠成【写真:松岡健三郎】

 忘れられない言葉がある。李忠成が言った言葉だ。在日サッカー選手たちを取材した『祖国と母国とフットボール』(ランダムハウス講談社、慎武宏・著)の中で、李はこう述べている。

「ルーツは韓国であり、生まれ育ったのは日本。祖国と母国が同じ意味を持つように、僕にとって韓国も日本も同じくらいの重みがあります。君のアイデンティティはどこ? と問われると、日本にもあるし、韓国にもあるし、さらに言うと在日にもあります。それが僕、李忠成という人間なんです」

「自己同一性」とも言われるアイデンティティという言葉に「帰属意識」という意味も含まれるのなら、李忠成は自分のベースは日本・韓国であり、そして在日コリアンそのものにあると言っているのだ。

 在日コリアンは長らく、日本社会においては「目に見えない存在」だと言われてきた。外見は日本人と変わらず外国人であることはわかりづらく、しかも、最近は言葉も生活スタイルも日本人とさほど変わらないので、たとえ目の前にいてもその存在はなかなか認識しづらい。そういう意味で言えば、在日コリアンは確かに「見えない存在」かもしれない。

 だが、日本に暮らしながら、韓国・朝鮮籍を持つ人が約57万人近くおり、それぞれの地域でコミュニティを形成しているのも事実だ。人口1億2000万の日本人口と比べれば、200分の1にしかならない在日がマイノリティであることは間違いないだろうが、在日コリアンは日本に間違いなく存在しており、最近は「見えない存在」ではなくなりつつある。

 例えばIT企業・ソフトバンクの創始者・孫正義は日本に帰化したことを公言する在日コリアンであるし、東京大学の政治学教授で人気コメンテーター&作家である姜尚中も、在日コリアンである。また、在日コリアンの生きざまをテーマにした文学(『血と骨』など)や映画(『パッチギ』など)が日本や韓国で話題を呼んでいる。

 スポーツの世界でも、多くの在日コリアンたちが出自を明かして活躍するようになった。格闘技の秋山成勲、ボクシングの李冽理、W杯で北朝鮮代表として活躍した鄭大世や安英学……。

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