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国歌斉唱にみるブラジルの“本気度”

text by いとうやまね photo by Kenzaburo Matsuoka

テロップで流れる歌詞

 実は、10年ほど前はブラジル代表の面々は国歌をあまり歌っていなかった。たとえばロナウドなどは、口をモゴモゴさせているだけで、歌っている気配がなかった。

 理由の一つが、「歌が長すぎて覚えられない」ことだった。そのため、協会から選手たちに「国歌を覚えなさい」というお達しまで出される始末だった。

 ブラジル国歌は世界でも長い部類に入る。前奏からフルで歌えば、優に3分はかかる。しかも変拍子が多く、短いフレーズの中に畳みかけるように単語が押し込まれているため、歌うのが難しい。W杯優勝国の中で、最難曲と言っていいだろう。ここに、歌詞の一部を紹介する。

イピランガの静かな岸辺は聞いた
とどろき渡る人民の雄叫びを
そして自由の太陽
  その眩い光が たった今
  我らが祖国を照らし出すのを
たくましき腕で勝ち取った平等の証 
汝の胸に おお自由よ 
我らが心は死をも恐れない
おお敬愛なる祖国 愛しく尊き国よ
栄えあれ! 栄えあれ!

 これでも全体の三分の一程度なので、その長さたるや『君が代』の比ではない。

 ブラジルの放送局も、長い歌詞を国民に覚えてもらうために、一役買っている。ブラジル最大のTV局ヘジ・グローボでは、国歌斉唱時にテロップでブラジル国歌の歌詞を流している。視聴者にテレビ前での国歌斉唱を促すためだ。

 こうした盛り上げも手伝って、今やスタジアム中が大合唱するまでになった。一昔前からすれば、隔世の感がある。

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