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Jリーグ 10年前

“難病Jリーガー”の挑戦は続く ~FC岐阜・杉山新という生き様~

不治の病を抱えながらプレーを続けるJリーガーが、発病から10年にして初めてつづった自伝『絶望なんかで夢は死なない』(イースト・プレス刊)が話題だ。代表歴もないJ2チームの選手の言葉が、いま多くの人の心を動かしている。その制作秘話を担当編集者が語る。

text by 中西庸 photo by Matsunao Kokubo

「彼の人生は、逆境に悩む人の羅針盤になる」という直感

“難病Jリーガー”の挑戦は続く ~FC岐阜・杉山新という生き様~
杉山新(FC岐阜)【写真:Matsunao Kokubo】

 あなたは、杉山新というサッカー選手をご存知だろうか。

「もちろん」とうなずいた方は、柏レイソル、ヴァンフォーレ甲府、大宮アルディージャ、横浜FC、そしてFC岐阜の、いずれかのサポーターのはずだ。逆に言えば、彼が所属したこれらのチーム以外のチームのサポーターには、その名前はあまり知られていないと思う。

 無尽蔵のスタミナで右サイドを激しく上下動する姿は、どのチームのサポーターにも信頼され、愛された。だが年代別も含めて代表経験はなく、J2でのプレーが多かったこともあり、知名度は正直、低いだろう。

 そんな彼の自伝を世に出したいと私が思ったのは、2012年。私の家族が入院していた病院の同じ病棟に、奇しくも彼の後輩である柏ジュニアユースの中学生が入院してきたことがきっかけだった。

 少年は、「1型糖尿病」という聞き慣れない病気を発症していた。聞けば、Jリーガーになる夢を抱いていたその少年は、かなり絶望した様子で、担当医の話も聞かないほど荒れていたという。そんな話が気になった私が調べてみると、「1型糖尿病」という病気の深刻さ(一生インスリン注射を打ち続けなくてはならない)と残酷さ(生活習慣型糖尿病と違い原因は不明で、おもに青少年期に突然起きる)を知った。同時に、その病を抱えながら10年近くも現役を続けているJリーガー──杉山新の存在に行き当たった。

 私は直感した。知名度なんか問題じゃない。絶対に、彼に自分の人生を語ってもらいたい。きっとそれはサッカーファンだけでなく、病や、理不尽な壁に突き当たっている人を励ます言葉になるはずだと。

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