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城福浩~父の背中が語るもの~

text by いとうやまね photo by Kenzaburo Matsuoka , junior soccer editorial staff

城福氏の原点。兄と比較された少年時代

 城福は、四国の徳島で生まれ、少年期を過ごしている。

「僕は、人にパスをするっていう選択肢のないプレーヤーでした」

 GKからボールをもらったら最後、延々ドリブルして、誰かに取られるまで、味方にパスなど一度も出さない、そんな子どもだったらしい。

―――パスサッカーが代名詞の監督からは、想像がつきませんね。

そう振ると、急に子どものような笑顔になった。

「ほら、ずーっと兄貴と比べられてきたから。そういうのもあって、意固地にボールを放さなかったんじゃないかな。けっこう屈折しています」

 城福には、三つ違いの兄がいる。早熟で体が大きく、足は県の記録をつくるほどに早かった。小学6年生でたたき出した100メートルの記録は、本人が社会人になるまで破られなかったのだから、相当なものだ。運動だけではない。頭も良く、やんちゃな弟とは違って、真面目で礼儀正しかった。

 周囲の大人は、弟を捕まえてはこう言った。お兄ちゃんはこうだった、お兄ちゃん、お兄ちゃん……。それは、物心ついた時から始まって、おそらく今も続いている。兄は、町で唯一のサッカースクールに通っていた。

 できたばかりの教室で、野球どころの徳島において、なぜかこの町内だけは、サッカーブームが起きていた。少年たちは、学校を終えると、サッカーかリレーをして遊んでいたという。

 面倒見のいい兄は、弟をよく草サッカーに誘ってくれた。グラウンドではなく、近所の野っぱらである。小さな弟は、兄の仲間たちに混じって、日が暮れるまでボールを蹴った。やがて、少年はサッカーの面白さを知り、今に至る。

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