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サッカー海外組第1号はなんとあの有名歌手の弟

text by 植田路生 photo by editorial staff

「これまでと同じでは通用しないわけですから」

 今の海外組が実感する“世界との壁”も体験済みだ。日本ではボールを前に蹴り出すと、俊足で相手DFを置き去りにすることができた。ところが香港ではそうはいかない。

 当時イギリス領だったこともあり、技術のあるイングランド人選手も多く、また戦術的にも進んでいる。「佐田は足が速い」ということがわかると、対戦相手は機動力のあるDFをぶつけてきて佐田の自由を奪いにきた。

「最初は苦戦しましたし、流石だな、と思いました。ただそこで、味方の使い方や駆け引きを覚えましたね。これまでと同じでは通用しないわけですから」

 体の大きい相手に対してはどうだったのだろうか。佐田の身長は171センチほどだ。

「まともに競り合っても当然勝てません。だから、ジャンプする前に一度体をぶつけるんです。そうすると、相手の体勢が崩れてヘディングしやすくなる」

 壁にぶつかると、技術を磨き、アプローチの仕方を変え、適応を図る。まるで今活躍している海外組のようだ。現在の選手たちについて佐田は「本当に技術的に向上している。世界でも引けをとらない」と賛辞を送るが、「ハングリーさは昔の方が上だったかもね」と語る。

 たとえば、―ある試合で佐田は右足を激しく削られた。捻挫や骨折ではなかったが、くるぶしの辺りがパックリと割れ、骨が見えていたという。

「急いで病院に向かったのですが、医者が麻酔もなしに骨をグッと押し込んで、軽くテープを巻いて治療は終わり。びっくりしましたよ。

 実はテープに石膏のような成分が含まれていて固定はできたのですが、今度はガチガチに固まってまったく動かない。『おい、これ外してくれ。サッカーできないだろ』と言ったんですが、『絶対ダメだ』と。しばらく押し問答を繰り返しました」

 そんな状態でも佐田は次の試合出場を監督に直訴する。現地では試合に出なければ意味がない。レギュラーと控えの差はごくわずか、ケガなどしているとすぐにポジションを失ってしまう。そして何より「削った相手に仕返ししたかった」という。

「せめて10分だけ」と懇願した佐田は、ケガを押して試合に途中出場。因縁の相手を見つけると激しく当たりにいく。次に気がついたのは病院だった。2人とも脳震盪で倒れ、病院送りになったという。「病院ではなんと隣同士のベッドに寝ていました。相手はその時のことをまったく覚えていないようでしたから、『大丈夫か?』なんて声をかけてそっと逃げてきましたよ(笑)」

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