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Jリーグ 10年前

虚無感に包まれた埼玉スタジアム。無観客試合によって再認識したJリーグの魅力と進むべき道

text by 桑村健太 photo by Asuka Kudo / Football Channel

数名の愚行が蝕んだJリーグの魅力と信頼

 私には、Jリーグの中で特別好きな風景がある。それは試合開始前、スタジアムDJがアウェイから駆けつけたサポーターに対して歓迎のナレーションをし、ホームサポーターも拍手で出迎えるという光景だ。

 アウェイサポーターはこれにまた拍手で呼応し、スタジアムは万雷の拍手で包まれる。それまで選手たちに声援を送っていたサポーターがそれを中断し、両者の健闘を誓い合うのである。

 あれほどまでに美しい光景を、私は他に知らない。

 Jリーグのサポーターには、キックオフとタイムアップの笛を境に物ごとを割り切ることのできる、ある種の寛大さのようなものが備わっている。クラブに最大限のコミットをしながら、相手の選手や監督、サポーターにもリスペクトを払う姿勢である。

 これは「世界に誇れる安全で快適なスタジアム環境の確立」を目指すJリーグの価値をさらに昇華させる、誇るべき文化である。

 そういったJリーグの持つ魅力や信頼を、わずか数名の愚行が蝕んだのだ。Twitterの拡散は止まらなかった。世界にも驚きをもって伝えられている。挙句の果てには、日本のニュース番組の中で最も視聴者が多いとされる『NHKニュース7』で、トップニュースにも近い形で報じられてしまった。

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