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日本代表 10年前

幾多のオファーも川崎に捧げたプロ生活。代表落選も、中村憲剛は“それでも前を向く”

text by いしかわ ごう photo by Getty Images , Asuka Kudo / Football Channel

「過去に満足はしていなくても、すべての過去に納得している」

 迎えた第13節鹿島アントラーズ戦。

メンバー発表前、最後の試合である。川崎フロンターレは4-1で勝利。試合後のミックスゾーンでは、2得点した大久保嘉人とともに、2アシストをした中村憲剛も多くの記者に囲まれていた。

 そんな折、中村の背後を通りかかった人物が、彼に向かって何かを叫んだ。その人物とは、敵将トニーニョ・セレーゾ監督である。一瞬、驚いた表情の中村だったが、「えっ、何?蘭童さん、何て言ったの?」に鹿島の高井蘭童通訳に尋ねると、セレーゾはポルトガル語でこう言っていたらしい。

「鹿島で待っているよ!」

 その言葉に苦笑いを浮かべながら、「いや、移籍しないですよ!」と言って記者陣を笑わせている。そしてこうつぶやいた。「なぜか鹿島の監督に好かれるんですよね……」

 実は中村は、鹿島が3連覇を達成したときのオズワルド・オリヴェイラ監督にも、年末のJリーグアォーズで顔を合わせるたび「鹿島に来るか?」とラブコールを受けている。

 2011年には、翌年から彼がポタフォゴFRで指揮を執ることが決まっていたため、「外国人枠は空いているぞ。ブラジルでプレーする気があるなら、オファーするぞ?」と誘われたほどだったという。サッカー大国・ブラジルの指揮官にこんなに好かれるJリーガーも珍しいかもしれない。

 だがこれだけの評価があっても、2度目のW杯には届かなかった。残念でならないが、選ぶのが監督である以上、その決定が全てである。12日のメンバー発表で、イタリア人指揮官の口から中村憲剛の名前が読み上げられることはなかった。

 彼の著書『幸せな挑戦』には、こんな一節がある。

“これまでの人生の中には「ここからやり直したい」といったポイントはどこにも見当たらない。過去に満足はしていなくても、すべての過去に納得している”

 14日、川崎フロンターレは韓国の地でACLラウンド16を迎える。「中村史上最高」でも届かなかった末の落選。だがそれでも前を向き、そして前に進んでいくプレーを中村憲剛はこれからもピッチで見せてくれるに違いない。

【了】

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