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サッカー界ができる“テロとの戦い”。パリの大きなテロ事件とカンボジアの小さな試合から考える

text by 植田路生 photo by Yukiko Ogawa , editorial staff

憎むべき対象はどこにあるのか?

サッカー界ができる“テロとの戦い”。パリの大きなテロ事件とカンボジアの小さな試合から考える
カンボジアンタイガーFCのアンバサダーを務める峰麻美さん【写真:編集部】

 異文化への接触は、他者への想像力を膨らませるきっかけとなる。そうした経験を重ねることはテロをはじめとする暴力を減らす鍵となるはずだ。ごく一部ではあるが、テロ事件後、移民や難民への排斥論が国内外で起き、イスラム教全体を悪とする声が出たのは非常に残念であった。

 移民政策や難民の受け入れに対してはさまざまな意見があり、慎重な議論が必要であるのはもちろんだが、だからと言って今回の事件を根拠とした排斥論には賛同できない。憎むべきは暴力そのものであり、テロを行った愚者がカテゴライズされる大きな枠組み自体を否定してしまっては、さらに憎しみが増すばかりである。

 カンボジアで1つ象徴的な事件が起こった。ほとんどの人が知らないであろう小さな小さな事件だ。被害者は現地クラブ、カンボジアンタイガーFCのアンバサダーを務める峰麻美さん。プノンペン市内でひったくりに遭い、パスポートなどの所持品を奪われた。バイクに乗った2人組に荷物を無理に引き剥がされたことから転倒、頭を3針縫う怪我を負った。

 海外で突発的な暴力に遭遇すれば、「二度とこの国には来たくない」などのネガティブなイメージを持ってもおかしくはないが、峰さんは被害に遭った次の日に行われたカンボジアンタイガー対アビスパ福岡U-18との親善試合にも姿を見せ、アンバサダーとしての職務をまっとうしていた。

「ただただびっくりしました。今でも傷口は痛いですし……。でも、カンボジアのことは大好きだし、いい思い出の方が多い。これからも仕事は続けたい」

 包帯が巻かれた姿からは痛々しさを感じたが、峰さんは気丈に語る。地元警察の対応が遅く、落ち込んでも無理はないが「いい人もいれば悪い人もいる。日本でもそう」とも。当たり前だが、憎むべき悪はひったくり犯である。カンボジアは日本に比べると犯罪発生率の高い国ではあるが、その国全体が犯人なわけではない。

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