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豪州、代表不人気と国内リーグの”格差拡大”。問い直されるサラリーキャップの意義

オーストラリアサッカー界は抱えていた大きな問題をクリアした。開催地が未定であったW杯最終予選の日本戦のスタジアムがメルボルンに決定。その決定にはシドニーとメルボルンの政治的な綱引きが含まれていた。Aリーグでは新たなサラリーキャップ問題が浮上している。オーストラリアサッカー界はどこに向かうのか。(取材・文:植松久隆【ブリスベン】)

text by 植松久隆 photo by Getty Images

メルボルン、開催地決定のための”政治的”なロビー活動

岡崎慎司
2009年のMCGでの日豪戦。74000人を集めた【写真:Getty Images】

 ようやく10月11日に予定されているW杯アジア最終予選・日豪戦の豪州での開催地が決まった。6月29日、豪州サッカー連盟(FFA)は、メルボルンにあるドックランズ・スタジアム(ネーミングライツ使用時はエティハド・スタジアム)を開催場所として発表。豪州国内では、収容人数3番目のスタジアムで、最終予選の天王山にはふさわしい会場と言えるだろう。

 しかし、なぜ、ここまで会場選びが難航したのか。それは、何かにつけて対抗心を燃やすシドニーとメルボルンという豪州の2大都市の間で開催場所を巡っての綱引きがあったからだ。

 当初はシドニーが有力視されていた。元々、FFAはシドニーを州都とするニューサウスウェールズ州(NSW州)政府と長期間のパートナーシップ契約を結んでおり、昨年のアジアカップ決勝、W杯3次予選の最大の注目カードだったヨルダン戦、親善試合のギリシャ戦などを相次いでシドニーで開催してきた。

 さらには、過去の日豪戦の開催実績を見たとき、前々回(09年)メルボルン、前回(12年)ブリスベンと、シドニーは日豪戦という”ドル箱”を逃し続けてきた経緯もある。そんな状況もあって、「今回は順当にシドニー」と予想されたのは自然な成り行きだった。

 ところが、そこに猛然と割り込んできたのが、ビクトリア州(VIC州)政府だった。豪州の”スポーツの首都”として自他ともに認めるメルボルンを州都とするVIC州は、メルボルン開催の実現をあらゆるルートから働きかけた。そのロビーイングが実り、結果的にFFAを翻意させることに成功したのだ。

 そして、FFAがメルボルンでの会場に選んだのは、09年の日豪戦が行われた10万人収容を誇るメルボルン・クリケット・グラウンド(MCG)ではなく、多目的スタジアムのドックランズ・スタジアム。同スタジアムの最大収容数は公式には56,347人で、前回のMCGでの開催時には74,000人を集めた人気カードだけに、収容人員の少ないドックランズ・スタジアムでの開催を疑問視する声も上がった。

 しかし、これは違う。今のサッカルーズの注目度、動員力であれば、MCGの収容力を持て余すことは明白。先月7日、サッカルーズはギリシャとの親善試合をドッグランズ・スタジアムで行った。その試合は女子代表マチルダスの壮行試合ニュージーランド戦とのダブル・ヘッダーだったにも関わらず、観客数は33,622人と6割少々の入りに留まった。

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