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Jリーグ 5年前

マリノスのアタッキング・フットボールは死んでいない。3連敗を悲観すべきでない3つの理由

前半戦で上位争いを演じていた横浜F・マリノスが、リーグ戦3連敗と苦しんでいる。この停滞は必然ともいうべきもの。夏に多くの選手が退団し、6人の新戦力が加わった。過去に例を見ないほどの急激な変化を経て、勝利を取り戻すことができるのだろうか。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

新戦力ずらり。リーグ戦は3連敗

横浜F・マリノス
横浜F・マリノスには今夏、多くの新戦力が加入した【写真:Getty Images】

 もしJリーグのシーズンが夏に始まるのであれば、あれだけ探り探りのサッカーになるのも理解できる。だが今はシーズンの半ば。成熟したチームから複数の主力が抜け、選手が大幅に入れ替わった時の戦い方の難しさを、強く感じさせられた。

 ただ、横浜F・マリノスは1年半かけて培ってきた「アタッキング・フットボール」を失ったわけではない。上位争いをする中でのリーグ戦3連敗は痛恨だが、まだ悲観すべき状況ではないとも感じる。

 17日に行われた明治安田生命J1リーグ第23節、マリノスはセレッソ大阪に1-2で敗れた。この夏は天野純や三好康児、飯倉大樹といった主力級の選手が移籍でチームを去り、リーグ戦で11得点を挙げていたエジガル・ジュニオが負傷で長期離脱。その中で6人の新戦力が加わり、シーズン途中とは思えないほどの変化があった。

 アンジェ・ポステコグルー監督は「我々のやることは変わらない」と念仏のように繰り返し、新加入選手たちにも自らの哲学を浸透させるべく心血を注いでいる。セレッソ戦では渡辺皓太、エリキ、マテウスと新戦力を一挙に3人スタメンに並べ、実戦デビューさせた。さらにGKはパク・イルギュの負傷によって杉本大地が抜てきされ、J1初出場を果たしている。

 選手の配置も独特だった。これまでは明確に1トップを置く布陣だったが、セレッソ戦ではマルコス・ジュニオールとエリキが横並びの形で2列目に入り、両ウィングの方が高い位置を取る「0トップ」に近い形に。

 マリノスにおいてシステムを表す数字の並びはほぼ意味をなさないが、あえて表記するとしたら「4-2-4-0」とでもいうべきか。変則的な選手起用によってエジガル不在の前線中央での起点作りを捨て、中盤で数的有利を作りながらボール支配率を高め、サイドからの崩しでゴールを目指す傾向をより強くする狙いがあったと思われる。

 試合後に「まずはハードワークすることが大前提で、守備では前からプレッシャーをかけること。ボールを持った時は力強く、前へ、前へというプレーを要求されていた」と語ったマテウスは、その言葉通り自慢の推進力を存分に見せつけ、積極的にシュートも放った。ゴールに結びつかなかったが、彼のように選手それぞれの個性が発揮される場面は少なくなかった。

 一方でチーム全体の完成度は低い。ただ、これは先述の通り新加入選手を多く起用した結果でもあり、受け入れるしかないだろう。個々の戦術理解度の高さと深さが要求される中、新たに加わった選手たちが短期間でそれらを習得するのは難しい。そして何より、戦術を体に染み込ませるには公式戦でプレーすることが最も重要なのだ。

「変化」を悲観すべきでない理由

 今季序盤を思い出してみれば、負傷などの影響もあってプレシーズンでほとんどトレーニングできなかったティーラトンは、左サイドバックの独特なポジショニングやプレーのタイミングを掴むのにかなり苦労した。

 それでも高野遼が長期離脱を余儀なくされる中、ポステコグルー監督が辛抱強く出場機会を与え続けた末に、今ではチームに欠かせない戦力になっているし、戦術面においても不可欠な武器となっている。

 昨季からポステコグルー監督のアタッキング・フットボールに取り組んで、残留争いに巻き込まれながらも時間をかけてチームを作り上げてきた。やはり個々への要求のレベルが高く、細部にこだわる戦術は一朝一夕に体得できるものではない。勝てない中でも折れることなく、地道な努力を重ねた苦しい時期を乗り越えてようやく勝てるようになってきたところで、今度は選手が大量に入れ替わった。

 やはり躍進するチームの選手が目をつけられるのはサッカー界における必然であり、活躍が認められてより良い条件のクラブへ移籍を決断するのも“個人事業主”の選手としては当たり前のこと。常に変化し続けることを避けられないサッカー界において、マリノスにはその「変化」がこの夏に来てしまったということだ。ならば乗り越えるしかない。

 リーグ戦3連敗は上位争いをするうえで大きな痛手に違いない。それを受け入れた上で、諦めることなく前に進めるか。悲観すべきでない理由は3つある。1つは監督の哲学がブレていないこと、2つ目は選手たちのモチベーションが落ちていないこと、3つ目は新戦力の存在だ。もし退団選手が出ていながら、代役を見つけられていなかったらそれこそチームは根幹から崩壊していただろう。

 セレッソのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が試合後に「今日のマリノスは負けるのにふさわしい試合をしていない」と評した通り、ゴール前でのフィニッシュの局面を除いてはこれまでと変わらなかった。60%以上のボール支配率を記録し、700本近いパスを試み、シュートも20本放った。

 スペインの知将が「リーグの中でも、プレーの面で私が一番好きなチームの1つ」と述べたチームは、そのアイデンティティを失ったわけではなかった。セレッソにとって後半あれだけ押し込まれたのは「我々の狙いではなかった」と認めているし、日産スタジアムの劣悪なピッチ状況による影響にも直接的に言及していた。

 まだ優勝を諦めるには早い。戦術の鍵になる選手たちの退団や負傷離脱は大きく影響するだろうが、乗り越えていくしかないとマリノスの選手たちは頭を切り替えていた。

 険しい顔つきで取材エリアに現れたマルコス・ジュニオールは「優勝するためには全員が負けた悔しさをしっかり噛みしめること。単に試合が終わって、負けた、それで家に帰って、普通に練習をして次に向かうのではなく、負けたことをしっかり感じて、その悔しさを次に繋げなければいけないし、みんなが優勝者のメンタリティを持っていなければいけない」と力強く語った。

 相手からのマークが厳しくなる中でも試行錯誤しながら高いクオリティを発揮し続けるマリノスの背番号9は、チームの攻撃を引っ張るエースとしての自覚を強めている。

「僕は『勝利のコレクター』」(エリキ)

 右サイドバックとして攻守に存在感を発揮する広瀬陸斗も「これだけ(新しい選手が)入ってきて、3連敗してチームも苦しいですけど、自分たちもサポーターも、チームに関わる人全員で士気を高めて、統一していくこと。このサッカーをしているとリスク管理とかを言われると思いますけど、自分たちはボス(ポステコグルー監督)を信じて、ボスに言われたサッカーを1年間通してやりたい」と固い決意を口にしていた。

 今は我慢の時かもしれないが、新戦力たちも実戦や練習を重ねる中でチーム戦術にフィットしていくだろう。名古屋グランパスから加入したマテウスは「チームとして、今の順位にいるのは偶然ではない。だからこそ自分はこのチームで何かを成し遂げられるという思いでここに来たので、これからしっかり合わせていって、勝利を掴んでいきたいと思う」と手応えを感じているようだった。

 天皇杯の横浜FC戦でマリノスデビューを飾り、実戦は2試合目となった渡辺も「(セレッソ戦は)個人に頼ってしまうこともあった。天皇杯の時の方が選手の距離感がよくて、ワンタッチのパスが多かったですし、そういう点ではちょっと違った」と成功体験を踏まえながら、「やっぱり自分とかが(選手と選手の)間で受けないと崩れないし、そういった仕事も増やさなきゃいけなかった」と課題も認識している。

 そして「オフシーズンに来たわけじゃないし、夏に来て、パッと入ってできなきゃダメ。こういう難しい状況の方が自分も成長するし、このタイミングで来て良かった」と成長への溢れる意欲をチームに還元していくつもりだ。

 後半にかけて尻上がりにプレーの質を上げていったエリキも「僕は負けず嫌いなので、チームメイトには自分のことを『勝利のコレクター』と言っている。チーム一丸となって、しっかり練習からやり直して名古屋に挑みたい。僕たちはいいチーム。必ず勝てると思うので、自分たちのサッカーを信じて、名古屋戦に向かいたい」と、新天地での挑戦に手応えを感じ始めている。

 まだJリーグのリズムに慣れておらず、南米の選手らしく攻守の切り替えやハードワークの面で課題は覗かせたものの、新たな背番号17のプレーからは攻撃における技術やクオリティの高さが見てとれた。

 マリノスは変わらないが、変わっていく。おかしなことかもしれないが、1年半かけて培ってきたアタッキング・フットボールは確実にチームの中に息づいていると感じる。渡辺が語った通り、天皇杯ではしっかりとこれまでの取り組みを表現できていた。相手の守り方の変化に適応してサイドチェンジのロングパスを増やすようなプラスアルファに、あえて取り組んでいることを扇原貴宏も天皇杯の横浜FC戦で証言していた。

 今は不変の哲学を貫き通す中で、変化を受け入れて前に進まなければならない。もしここで諦めてしまえば、シーズン開幕前に掲げた「タイトル獲得」という目標は、ただの夢のまま終わってしまうだろう。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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