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日本代表 5年前

日本代表、もはやホームの親善試合に意味なし。明らかに手を抜く相手…早急に“強化”の見直しを

日本代表は5日に行われたキリンチャレンジカップでパラグアイ代表に2-0の勝利を収めた。南米から来日した相手は、全員が揃って練習できたのが前日の1時間のみだっただけでなく、チーム全体のコンディションは惨憺たるものだった。こういった状況の繰り返しが容易に想像できる日本国内での親善試合を続けることに意味はあるのだろうか。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

象徴的だった53分の交代劇

日本代表
日本代表はパラグアイ代表に2-0で勝利を収めた【写真:Getty Images】

 インテンシティ。かつてアルベルト・ザッケローニ監督の発言で脚光を浴びた、サッカーにおけるプレー強度を表す言葉だ。

 しかし、5日に行われたキリンチャレンジカップの日本代表対パラグアイ代表では、この「インテンシティ」とは無縁な展開となった。特にパラグアイ代表からは、ザッケローニ監督の言う「オンの時でもオフの時でも活動的になる」様子は見られなかった。

 試合序盤からパラグアイ代表の選手たちは運動量を上げられず、日本からボールを奪っても後方からの押し上げが不十分で間延びした中途半端な攻撃に終始する。その結果、再び日本ボールになると本来は空けてはいけないスペースにいとも簡単に侵入され、前半だけであっさり2つのゴールを許した。

 パラグアイ代表のエドゥアルド・ベリッソ監督は「今日の試合ではフィジカル面で日本と互角な戦いをすることができなかった」と述べた上で、「言い訳にはしたくないが、長距離移動が少なからず影響していたのではないかと思う」とコンディション面に不安があったことを認めていた。

 それもそのはず。パラグアイ代表の選手は23人中14人が南米から、北中米も含めれば18人がアメリカ大陸から来日した。彼らは必然的に長旅を強いられる。筆者も今年6月のコパ・アメリカ取材で日本とブラジルの往復を経験したが、24時間以上かかる飛行機移動と半日近い時差による身体的負担は想像をはるかに超えていた。直行便はないので出発地から12時間飛行機に乗って、さらにトランジットを挟んで、再び空の上に12時間というのは本当に堪える。

 象徴的だったのは53分の選手交代の場面だ。パラグアイ代表のDFグスタボ・ゴメスが足をつってDFロベルト・ロハスと交代を余儀なくされた。今月1日に所属クラブで試合に出場してから来日という過密スケジュールだったとはいえ、普段からブラジルの名門パルメイラスで主力として継続的に試合をこなしているセンターバックが真っ先に足をつる状態で、彼らのコンディションが万全だったとは決して言えない。

 パラグアイ代表は、6月のコパ・アメリカでのちに王者となるブラジル代表を延長戦まで0-0と苦しめたが、日本では全く別のチームになっていた。この1年で日本代表と対戦したコロンビア代表やベネズエラ代表、ボリビア代表もコパ・アメリカでは別格の覇気あるプレーで躍動していた。あの姿を見て、果たしてホームでの親善試合が本当の意味で日本代表の“強化”につながると言えるのだろうか。

「海外でやらないと日本代表の本当の成長はない」

 長友佑都は今年はじめのアジアカップ決勝の後、将来への危機感を込めて勇気ある発言をしていた。

「親善試合はなかなか難しいですね。親善試合はアウェイでやりたいですよ。親善試合のホームでは、やっぱり結局相手が手を明らかに抜いているし、特に強豪はね、抜いている。そこで勝ったとしても何の意味も持たないんじゃないかと思いますね。アウェイで、厳しい環境でやって、勝てて自分たちの本当の意味での自信につながるということを思いますね」

「(キルギスは親善試合とアジアカップで全く別のチームになっていた?)だからもうこれですよ。日本人は親善試合でも一生懸命やるんですけど、海外の選手って親善試合だと明らかに抜いていますよ。特に強豪チームはね。明らかにテンションが違いますし、彼らが放つオーラは全く違うんでね。そこですよ。親善試合を日本でやるのか、やっぱり自分自身はあまり好意的ではないと思いますね。海外でやらないと日本代表の本当の成長はないんじゃないかなと思います」

 まさに彼の言葉通り、親善試合は積極的に海外アウェイで行うべきだ。もはや国内でホームに遠方のチームを招いて開催する親善試合に意味はない。日本サッカーの“強化”には、ほとんど役立たないと言っていいだろう。

 もちろんスポンサーの存在や、テレビ放送の時間帯が重要なのも理解できる。国際Aマッチデー期間中に連続して行う2試合は原則的に同一大陸内でなければならないFIFAのルールも知っている。UEFAネーションズリーグの設立や各大陸選手権予選、ワールドカップ予選などの兼ね合いで親善試合のマッチメイクが困難なのもわかる。日本で応援してくれるファン・サポーターが全国各地での代表戦を楽しみにしているのも感じる。

 それでも本当の意味で日本代表を強くしていくなら、日本サッカー協会はもう国内で圧倒的な有利な条件下で戦える親善試合はやめる方向性を打ち出していくべきだ。いくら強豪国とはいえ長距離移動を強いるスケジュールで日本に呼び寄せても、万全なコンディションには程遠いだろうし、モチベーションも低くなって「明らかに抜いて」ピッチに立たれては意味がない。

 対戦相手として来日した選手や監督は、よく「準備期間が短い中でも万全の準備を整えて、全力で勝ちを目指したい。いい試合をお見せしたい」などと語るが、こんなものは大衆向けのリップサービスであって絵空事に過ぎない。やはり本当の世界のレベルや強さを知り、そこから学んで何かを得るには、招き入れるよりも“道場破り”の感覚で敵地に乗り込んで胸を借りるくらいの方がいい。

長距離移動は選手にとって悪循環を招く

 これからはカタールワールドカップ予選が始まってくるので、どうしても身動きを取りづらくなるが、もし予選が国際Aマッチデー期間に1試合しかないのなら、もう1試合は別グループのアジアの国と対戦した方が実戦のシミュレーションにもなるし、強化という意味でより大きな成果が得られるだろう。

 もし国際Aマッチデー期間に2試合とも親善試合ができるなら、欧州でミニトーナメントのようなものを開催してもいいだろう。UEFAネーションズリーグなど欧州では公式戦が組まれている可能性もあるが、南米やアフリカのチームを3ヶ国招待してノックアウト方式で3位決定戦まで2試合を保証するミニトーナメントなら、より公式戦に近い感覚で本気のぶつかり合いが期待できるのではないだろうか。

 昨今、南米やアフリカの代表チームも主力選手の多くは欧州でプレーしているし、彼らにとっても代表招集による身体的負担が少なくて済む。日本代表も海外組が増え、今回は23人中19人が欧州でプレーする選手だったことを考えると、招集時に移動の負担が軽くなる。国内組の選手たちにとっては、代表での活躍によって欧州の市場で目にとまる可能性が高まるかもしれない。

 森保一監督はパラグアイ戦前の記者会見で「招集した選手が今回の代表活動の中で少しでも良い状態を作ってもらうことと、クラブに帰った時により評価が上がるように、良い状態でクラブに戻ってもらえるように」と語っていたが、今の状況では大した成果もない試合のために長距離の移動を強いられ、コンディションも万全とは言えない状態で所属クラブに戻ることになってしまう。普段の出場機会が限られている選手にとっては悪循環でしかない。

今すぐホームの国際親善試合をやめよう

 選手たちも長距離移動の難しさは痛感しているだろう。GKの権田修一は「(ワールドカップの)アジア2次予選にしても、本当にいろいろなところに行きますし、僕も海外組になってみて知ったんですけど、帰りの移動とかすごく乗り継ぎが多かったりとか、そういうのは結構大変だなと思う。そういうのをやっぱり乗り越えないと、本当にみんながコンディションを常に良い状態でというのは難しいんだなというのはあります」と語っていた。

 ここで挙げられたアジアでのワールドカップ予選が組まれている場合は仕方ないが、そうでないタイミングでは欧州組が増えている現状を踏まえた強化プランを早急に見直していくべきではないだろうか。

 もちろんスポンサーやテレビ放送など、ピッチを取り巻く要素もサッカーには欠かせない。視聴者や来場者、サッカーに関心を持つ人々に対してアプローチして、売上につなげることもスポンサーになるにあたっての大きなメリットだ。その意味でホーム開催の試合が持つ影響力は大きく、そういった場を使って露出機会を増やしていくことが重要なのも理解できる。

 だが、本当の意味で日本代表を強くしたいならピッチ外の考え方もアップデートしていく必要があるだろう。目先の露出や利益を追い求めるのではなく、辛抱強く支え続け、結果が出た時に強くなっていく過程で傍にスポンサーがいたことが明らかになってイメージが向上するといった新しい形を、日本サッカー協会は模索していってもいいかもしれない。

 いずれにしろ国内で開催するホームの親善試合にもはや意味はないと訴えたい。欧州や南米では実力のある国同士が、我々よりずっと先でしのぎを削り合っている。そういったチームと世界最高を決める舞台で対等に渡り合って、勝っていくためには、すぐにでも決断を下して変化を受け入れるべきだ。現状のままでは日本サッカーが井の中の蛙のまま停滞する、将来への危機感しかない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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