フットボールチャンネル

遠藤航の何が素晴らしいのか? ブンデス最強のデュエルは武器の一つに過ぎない。活かされるJリーグでの経験【分析コラム】

ブンデスリーガ第19節、シュトゥットガルト対マインツが現地時間29日に行われ、2-0でシュトゥットガルトが勝利を収めた。遠藤航はこの試合にフル出場し、チームの今季ホーム初勝利に貢献。ブンデスリーガトップのデュエル勝利数をマークして注目を集めているが、デュエルの強さは遠藤の武器の一つに過ぎない。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

ブンデスリーガで躍動する遠藤航

0202EndoWataru1_getty
【写真:Getty Images】

 シュトゥットガルトのキャプテンを務めるゴンサロ・カストロは、先発したマインツ戦の26分に交代。ブンデスリーガ400試合出場という記念すべき試合で太ももを痛め、チームの今季ホーム戦初勝利をピッチで見届けることができなかった。

【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 前節に続き、カストロから遠藤へとアームバンドが渡された。遠藤の存在なくして、2-0の完封勝利はなかっただろう。豊富な運動量と的確な判断で3バックの前に立ちはだかり、マインツの攻撃を遮断していた。

 2部に降格したシュトゥットガルトに加入した遠藤は、11月下旬のカールスルーエ戦で初先発を飾って以降レギュラーに定着した。先発を外れたのは昨季終盤に累積警告により出場停止となった1試合のみで、今季もここまですべての試合で90分プレー。ペルグリノ・マタラッツォ監督から絶大なる信頼を掴み、昨年11月にはクラブとの契約を2024年まで延長している。

 遠藤の活躍を語るとき、デュエルという言葉が用いられる。ドイツではツヴァイカンプフ、1対1の勝負を意味するこのスタッツにおいて、遠藤はブンデスリーガトップの300回を記録。2位に47差という大差をつけている。

 しかし、遠藤はフィジカルが特別秀でているわけではない。178cmという身長はブンデスリーガの中では小柄で、スピードという面でも凡庸だ。しかし、1対1の勝利数で圧倒的な数字を残しているのには理由がある。その一端がマインツ戦に出ていた。

「40歳のようなプレー」

 目まぐるしく攻守が入れ替わる展開が続いた。シュトゥットガルトがボールを奪えば、素早く最前線のサーシャ・カライジッチに縦パスをつける。200cmの巨体でボールを収め、2列目のアタッカーが前を向いて積極的な攻撃を仕掛けた。

 マインツ戦で遠藤がゴール前に顔を出すシーンはほとんどなかったが、カウンターに備えて適切なポジションを取り続けている。ボールホルダーと絶妙な間合いを取り、自陣への侵入を遅らせて味方の戻りを待った。

 2015年の東アジアカップで、遠藤は初めて日本代表でプレーしている。当時監督を務めていたヴァイッド・ハリルホジッチは22歳の遠藤を「40歳のようなプレー」と表現した。落ち着きがあるという意味合いもあるが、アグレッシブさに欠けるというニュアンスも含まれていた。

 それから5年半を経ても遠藤の特徴は大きく変わらない。両チーム通じて6枚のイエローカードが飛び交う激しい試合の中で、遠藤は常に冷静で不要なファウルは犯さない。チームトップのファウル数を記録している潰し屋だが、この試合のファウルはわずか1度。それでいてデュエル勝率はチーム平均を上回り、自身の今季平均よりも高い60%という数字を残している。

ドイツで活かされるJリーグでの経験

20160307_endo_getty
【写真:Getty Images】

 若い選手が多いシュトゥットガルトというチームにおいて、27歳の遠藤はベテランの部類に入る。中盤でコンビを組むオレル・マンガラは22歳で、得点を決めたのは23歳のカライジッチと21歳のシラス・ワマンギトゥカ。カストロがピッチを離れると、遠藤はチーム最年長選手となった。

 シュトゥットガルトはボールを奪ったら積極的に縦につけ、敵陣に攻め込むプレーを好む。若手が多いという点も含め、自身がかつて籍を置いた湘南ベルマーレと共通する部分がある。

 チームスタイルは湘南に通じるものがあるが、個人の役割という意味では浦和レッズでの経験も大きい。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は遠藤を3バックの中央で起用。カバーリング能力が求められるこのポジションでの経験は、間違いなくシュトゥットガルトでのプレーに活かされている。

 25歳での海外初挑戦は、他の日本人選手に比べると遅い。しかし、Jリーグでの経験が活かされているという点で見れば、その経験は決して遠回りではなかったのではないだろうか。

デュエルの強さは武器の一つ

0202EndoWataru3_getty
【写真:Getty Images】

 マインツ戦は遠藤の対応力が光っていた。ビルドアップの局面で、前半は3バックの両サイドが開き、遠藤はその間のスペースに入ってボールを受ける。これでシュトゥットガルトはボールを持つことができたが、フィニッシュにはうまく繋げられなかった。

 すると、カストロが下がったあたりの時間帯から遠藤はポジションを変える。最終ラインに降りる機会は減り、中盤でボールを受けるようになった。相手に寄せられれば少ないタッチ数で捌き、フリーでボールを受ければ前を向いて敵陣へと侵入した。ボール保持率は下がったが、攻撃のチャンスは増えている。

 遠藤の変化が個人の判断だったのか、チームの指示だったのかは分からない。ただ、遠藤の対応力がチームの潤滑油になったことは間違いないだろう。

「攻撃において彼はリンチピン(車輪が外れないためのピン)だ。そして守備においては大きなスペースを塞いでいる。今は彼なしで試合をすることなど想像できない」

 マタラッツォ監督は遠藤をこう称賛している。リンチピンは最も重要な部分を指しており、遠藤は前掛かりになることの多いチームのリスクマネジメントを担う。そのプレーを見れば、ブンデスリーガ初挑戦の遠藤にゲームキャプテンを任せることに疑問はない。

 デュエル勝利数というのは、遠藤を語るうえで武器の一つに過ぎない。40歳に見えるプレーは、28歳の誕生日を間近に控える遠藤にとっては大きな武器になっている。「小さなファイター」と称された遠藤は、屈強なブンデスリーガの選手たちを相手に渡り歩く術を身に着けている。

(文:加藤健一)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top