「盲目のサッカー記者」がいた。“観る”のではなく“聴く”。先入観を砕く、その情熱と人生【インタビュー】

我々はフットボールを「見ている」。でなければこの競技は理解できないのか? そんな疑問や先入観は一瞬で打ち砕かれた。AFCアジアカップで出会ったある1人のジャーナリストは、先駆者であり開拓者でもある。イラン出身の全盲のフットボールジャーナリスト、マニ・ジャズミ氏の人生やサッカー観に迫った。(取材・文:舩木渉)

2019年03月07日(Thu)12時08分配信

text by 舩木渉 photo Wataru Funaki
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全盲の記者との出会い

マニ・ジャズミ
イラン出身のマニ・ジャズミ氏【写真:舩木渉】

 UAEでのAFCアジアカップ取材中、ずっと気になっている人物がいた。選手でも、監督でも、AFCの重役でもない。1人の記者のことだ。

 筆者は大会を通じて17試合をスタジアム取材する機会に恵まれたが、そのほとんどで彼の姿を見た。決まったチームを追いかけている様子はなかったので、もっと多くの試合を取材していたのかもしれない。

 いずれにしろ、その彼は試合を終えた選手が取材に応じるミックスゾーンで肩から音響機器を提げ、耳にヘッドフォンを当て、片手にマイク、もう片方の手には白杖を握りしめていた。つまり全盲か、それに近い状態にあるということだ。

 我々は必ず何かしら先入観や固定観念に囚われている。例えば、フットボールは「見るもの」といった具合に。ただでさえ戦術・戦略が複雑化し、広いピッチの上を常に22人が不規則な動きを繰り返している競技で、そこから発生する情報量は膨大になる。

 集中してピッチに目を凝らしていても見逃すことは数多くあるし、ただ見ているだけで全てを理解するのは難しい。にもかかわらず、「見る」ことのできない状態で、ましてジャーナリストという深い理解や洞察が求められる仕事が可能なのか?

 彼はそんな先入観や疑念を全てぶち壊してきた。ミックスゾーンでは試合で起こった出来事について的確な言葉にして選手に問いをぶつけ、記者会見でもきわどいトピックに鋭く切り込んでいく。日本代表戦の後には、必ず吉田麻也を呼び止めて試合について様々な質問を投げかけていた。その姿はまさしく敏腕ジャーナリストだった。

 アジアカップも終盤に差し掛かる頃、あまりに気になるので思い切ってミックスゾーンで話しかけた。挨拶を済ませ、彼の名がマニ・ジャズミということがわかった。英『BBC』のラジオパーソナリティで、サポート役の2人とともにUAEで1ヶ月間取材を続けているということだった。

 今まで視覚障害者のフットボールジャーナリストなど、日本はおろかヨーロッパでも会ったことがなかった。聞きたいこと、知りたいことがどんどん浮かんでくるので取材を申し入れると、快く受け入れてくれた。そして話を聞いていると、自分の先入観や固定観念はいい意味でぶち壊されることとなった。

 全盲の彼がどのような考えのもとにフットボールと向き合っているのか。いかにしてジャーナリストという職に就いたのか。インタビューはアジアカップ準決勝の日本対イランの試合前に英語で行い、20分以上にわたってサッカー観やジャーナリストとしての哲学、人生観などを大いに語ってくれた。これからお読みいただくのは、全て彼自身の口から発せられた言葉である。

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