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アンドレア・ピルロ 天才レジスタの「戦術眼」(後編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Sinichiro Kaneko/Kaz Photography

――そのプランデッリと言えば、言うまでもなく代表、今年6月に控えるユーロ(2012欧州選手権)。南アでの失意から2年、まさに“復活”を期すイタリアは、しかし来るユーロの初戦(6月10日)で現世界王者、欧州王者のスペインと対戦する。難しい戦いが予想されているが。

「もちろん簡単ではないよ。むしろ、文字通り“最強”である彼らが相手なんだからこれ以上ないほどの難しい試合になる。でもね、僕らとしては同時に最高のモチベーションで臨める相手でもあるわけだし、なので必ず見応えのある試合になると確信しているよ。そもそもイタリアは不利と言われれば言われるほど力を発揮するというのが伝統だし(笑)。

 とにかく、この僅か1年と数ヶ月でプランデッリが劇的にプレーの質を変えたという事実、それを代表で成し遂げることがいかに難しいかを知るからこそ、僕だけでなくメンバー全員が監督に分厚い信頼を寄せているんだ。ピッチに立つ現代表に迷いはない、というところだね。誤解を恐れずに言えば、あの世界を制したリッピの代表をプレーの水準で今の代表は確実に上回っている。

 主力2人(アントニオ・カッサーノとジュゼッペ・ロッシ)を欠くことになるのかもしれないけど、それでも僕らイタリア代表は相応のサッカーをみせると確信している。そして、他の誰よりも僕ら選手が6月の対スペインを心待ちにしているんだ」

ピルロが最も活きる形とは?

―― 冒頭で君は今日のバルセロナを理想のサッカーと言ったわけだが、現実に今季のユベントスが4-3-3を採用しているとはいえその中身はバルサのそれとは大きく違い、かつ代表は4-3-1-2が基本。ここでもまた異なるサッカーをしている。だけでなく、君は昨季のミランでは中盤のサイドでもプレーした。端的に、ピルロが最も活きる形とは?

「そうだね……難しい質問だけど、やっぱり一番“ムリなく”プレーできたという意味ではアンチェロッティのミラン、ということになるのかな……。あの4-3-1-2。中盤の底に僕がいて、その僕の左右にガットゥーゾとセードルフ、ロンボ(ダイヤモンド型)の頂点にはカカ、前の2人はシェフチェンコとインザーギ。で、両サイドではカフーとパンカロが機をみて“ウイング”に変化するというあの形。03-04シーズンにスクデットを獲ったミランだね」

――コンテの4-2-4はどう?

「とても意義ある試みだと思うし、常に攻撃的であろうとする闘将・コンテらしい考え方だとも思う。ただ、あのサッカーをやるには当然のことながら物凄い運動量が一貫して求められるから、よほど11人のコンディションが良くなければ実践には大きなリスクを伴ってしまうことになる。少し違うとは言っても、2年前のミランで、レオナルドの指揮下で僕らは4-2-1-3を、いわゆる“4-2-ファンタジア”をやっているからね。あの布陣では中盤は僕とアンブロシーニ、トレクアルティスタがセードルフで、前の3人はロナウジーニョとボリエッロ、そしてパト。

 言えるのは、僕ら中盤の2人には通常の4倍を走ることが求められて、それが実際には継続不可能ということで、結果としてヒドい量の失点を喫してしまったということ。とても面白いサッカーだったことは事実だけど、最終的にタイトルを獲れないことは分かっていたよ。あの手の戦術をセリエAで実践するのは建設的じゃない。むしろ非現実的だと言うべきなのかもしれないね。

 もっとも、あのミランでは前線から守備に戻るFWはボリエッロの他にはいなかったんだけどね。まぁ、CFの彼だけが戻るというのも実に不思議な話なんだけど……(笑)。なので、今回この月のメルカートでそのボリエッロがユーベに入ったことには重要な意味があるんだよ。

 とにかく、今季の開幕から間もなくしてコンテが基本となる形を変えたのは賢明な判断だったと思う。重要なのは、そのコンテ特有の攻撃的なメンタリティが今のユベントスに失われていないということ。時間帯、戦況によっては4-2-4以上にアグレッシブに攻めにいくからね。そして、ボールを失えば全員が猛烈な勢いで守備に戻る。

 それを可能にする走力が今季のユベントスにはあるし、守備のメカニズムがほぼ完璧と言えるほどのレベルにまで達している。で、もしも守備に戻らない選手がいようものなら、あの熱い闘将がロッカールームで文字通り爆発する、と……(笑)」

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