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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(後編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada


マンチーニにとって大いなる『賭け』。マリオ・バロテッリ【写真:山田一仁】

「守備的」という批判は徐々に払拭できた

――あのFAカップを制した当時の話。76年以来のタイトルをクラブにもたらしたにもかかわらず、君のサッカーを英国メディアは「守備的」と厳しく批判していた。

「それはもう文化の違いだからどうしようもない。常に攻めて行くことこそがフットボールであると考える彼らは、僅かでも“計算”されたサッカーを見れば直ぐさま、それに嫌悪感を示す。

 まぁ、かくいう僕も所詮はイタリア人であるわけで、言ってみればこの英国というフットボールの本場に“異文化”を持ち込んだのだからね、ある程度の拒否反応があるのは止むを得ないと思っていたし、それは今でも変わらないんだよ。それこそ、1-0で勝っている後半90分に怒濤の攻撃なるものをやろうものなら『気でも狂ったのか?』と言われるのがイタリアだからね……(笑)。

 とにかく、その守備的とかいう批判は、その後で徐々にではあるが払拭できたのだと思っている。確かに昨季の我々はプレミアを制したんだが、勝ち点89はユナイテッドと同数、勝利も引き分けも敗戦の数もすべて同じ。しかし、得失点で8の差を付け、総得点93はリーグ1位、総失点29はリーグ最少だ。ここに、先ほど触れた『バランス』の証左がある」

――そのユナイテッドとの試合、第1戦に6-1の大勝を収める。ファーガソンに勝つ。この意味を改めて聞かせてくれますか?

「さっきと同じことしか言えないよ。それこそ最高の喜び。

 ただ、その僕の歓喜があんなにも大きかったのは、これもまた繰り返しになってしまうんだが、それはやはりファーガソンという監督がいかに偉大な存在であるかを示すひとつの証であるとも思う。

 でもね、実際のところは第2戦、あの1-0の勝利の方が監督としての満足度という意味でははるかに大きかったんだよ。その勝利で彼らに順位で追いつき、しかも戦術的な意味で実に難しい試合だったわけだが、あの戦いに我々は、特に『守備のメカニズム』で明らかに上回ることによって勝てたのだからね」

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