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サッカー選手の帰化に寛大なスペイン ~来る者拒まず……やたらと緩いビザ発給の基準~

text by 工藤拓 photo by Kazuhito Yamada

21世紀になるまで、国外でプレーするスペイン人選手はほとんどいなかった

 これだけ外国人を受け入れるスペイン人は、しかし一方で地元以外のあらゆるものを否定する排他的な性格も持ち合わせているから面白い。

 彼らはたとえどんなに小さな田舎町であろうとも、自分の生まれ故郷を上回る場所などないと本気で考えている。驚くべきはその優越性を裏付ける根拠が何もないことだ。そんな思考が成り立つ秘訣は、彼らが「地元以外のことは何も知らない」ことにある。

 つまり、彼らの頭には2番以下が存在しないのである。しかもおかしなことに、彼らは何も知ろうとせぬままに他国や他の地域のことを見下す癖がある。それは我々外国人から見ると田舎者丸出しで、格好悪いことこの上ないのだが……。

 ゆえに21世紀に入るまで、国外でプレーするスペイン人選手はほとんどいなかった。なぜなら、地元を離れたくないから。スペイン語が通じない、何も知らない場所では生きていけないから。そんな時代に他国の文化とサッカーに適応し、国際的な名声を勝ち取った選手と言えば、60年代にインテルで活躍したスペイン人唯一のバロンドール受賞者ルイス・スアレスしかいない。

 外国人選手を多数擁するレアル・マドリーやバルセロナが国際舞台で成功を収める一方、スペイン人だけで構成される代表チームが勝てなかった要因の1つはそこにあると言われてきた。

 そんなスペイン人も時代の変化、情報の国際化と共に少しずつ外に目を向けはじめている。サッカー界でも世紀の境目くらいから徐々に国外でプレーする選手が増えはじめ、アーセナルのセスク・ファブレガス、リバプールのシャビ・アロンソらの成功をきっかけに国外流出の流れが一気に加速。今では三大リーグにとどまらず、ギリシャやトルコ、キプロスといったマイナーリーグで活躍する選手や指導者も出てきている。

 それでもまだ他国へ帰化した選手が出てこないところに、彼らの「地元主義」とも言える性格がよく表れている。僕が知る唯一の例外は昨年ベネズエラ代表入りを選んだフェルナンド・アモレビエタ。彼は生誕から2歳までベネズエラで過ごしたため、元々ベネズエラのビザを持っていた。よって他国に移住し、言語と文化、生活に馴染んで国籍を取得した選手には当てはまらない。

 いまやスペイン代表入りは世界一高きハードルとなっている。今後は他国の代表選手を目指すケースが出てくるかもしれないが、そのためにはスペイン人特有のメンタリティーを大きく変える必要があるだろう。

【了】

初出:フットボールサミット第7回

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