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Jリーグ 11年前

【特集・3/11を忘れない】支援活動から思索する未知のサポーター像(後編)

text by 清義明 photo by Kenzaburo Matsuoka

共同体モデルとしての「NPO法人ハマトラ」

 横浜F・マリノスのサポーターによるサポート組織「ハマトラ」が、神奈川県による特定非営利活動法人の認証を取得したのが2009年。日本初のゴール裏サポーターが主体となったNPO法人が誕生することになった。立ち上げた当初から代表を自分がつとめ、現在ではもうひとりの代表とあわせて二名の代表の体制で運営している。

 サッカーのサポーターが法人化することが別段珍しくないのは、これまで見てきた例の通り。また、サッカーにまつわるNPO法人も当然ながら多数存在する。Jリーグバブルが崩壊したあとには、地域リーグのサッカーチームはNPO法人として始まるところが目立って増えてきた。また、2002年のワールドカップに向けて、筍のように小さなサッカー関連のNPO法人も立ち上がったことも記憶に残る。

 このNPO法人の仕掛けは、故郷喪失者の「ネーション」(共同体)としてのサポーター概念を拡張させ、現実社会の中で営利組織であるクラブチームの論理と整合性を取り付けながら、できる限り多くの人にプラスを与えるかを考えた結果辿りついたものだ。

 ヒントはバルセロナのソシオ制度にあった。2011年に出版された『ソシオ制度を学ぶ』(谷塚哲/カンゼン)には、ソシオ制度とNPO法人の基本的概念がほとんど同じであることを伝えている。これは別に偶然ではなく、もともとNPO法人の成り立ちが、海外の地域コミュニティの非営利法人組織をモデルとしているからである。そして、バルサのソシオは、単なるスポーツ組織ではなくて、軍事政権に抑圧されたカタルーニャの地域ナショナリズムをベースにした、地域コミュニティの非営利の法人組織である。

 クラブチームは営利組織であるという当たり前の前提を皆は忘れる。それは、そのように見せないトリックがあるからだ。株主のために営利法人はある。だから、クラブチームは、もともと株主のためにあるのが当たり前なのである。顧客のためにあるわけではない。ましてや、サポーターなどという抽象的な概念のためにあるわけでもない。堀江貴文が株主資本主義(企業は株主のためにあるという原理)を声高に語っていても、そんなことはサポーターの耳には届いていない。そうして、カネを払って消費しているというのではなく、能動的にサッカーに寄与することを原理とした共同体とクラブチームに対して思い込むことから、スポーツエンターテインメントは成立する。

 しかし、その解けない知恵の輪のような矛盾に、それなりの整合性をもたせることも可能なのではないか。異なった原理を持つクラブチームと、チームと地域の名前に架空の共同意識を抱いたサポーターに折り合いをつけることができるのではないか。NPO法人としたのは、これに現実的な解決を与えるためである。

 また、サポーターとして大きなことをやっていくには、どうしても契約や金銭が絡んでくる。それを任意団体や個人として、うまくやりくりしていくこともできるのであるが、時としてままならないことも出てくる。クラブではなく、サポーターが企業や行政などと渡り合っていくことも、時として必要になるだろう。だが、どんなサポーターグループであっても、それ単体で表立って企業や行政が向き合ってくれることなど、おそらくないだろう。

【次ページ】ハマトラの構成
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