サッカークラブを超えた存在 ~スウェーデンの移民クラブを訪ねて~(後編)

2013年04月23日(Tue)17時28分配信

text by 鈴木肇 photo Hajime Suzuki
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大事なのはサッカーだけではない

 インタビュー中、ゼバ氏が何度も口にしていた言葉がある。それは「FCローセンゴードにとって大事なのはサッカーだけではない」。

「勝ちたいのは当然です。ですが、重要なのはサッカーだけではありません。このクラブには『ズラタンのようになりたい』と願っている子どもは多いですが、現実的に考えればサッカーで生計を立てるのは非常に困難です。大半の子たちは、大人になれば労働市場に参入していくことになります。われわれは、子供たちにはサッカーを通して人として優れた人間になってほしいと願っており、そしてそれを手助けしたいのです」

 ゼバ氏の言葉からもわかるように、FCローセンゴードはサッカーを通じて人間形成の場として子どもたちをサポートしていきたいと考えている。この「人間形成」というキーワードを掲げるクラブチームは特に珍しくないが、移民が大半を占めるローセンゴード地区の現状を考えた場合、クラブが果たす役割は大きい。

 先述したように、ローセンゴード地区はその低所得と高い失業率、そして治安が悪いことで有名だ。近年では若者と警察による衝突が頻発している。たとえば2010年4月には大規模の暴動が起き、乗用車やキオスクなどが炎上するという事件が発生。これに対処しようとした消防隊に対して石や爆発物が投げ込まれた。以後、ローセンゴードで火災が発生した場合、消防隊が現場に向かう際には警察の同伴が義務付けられている。

 もう1つ問題点として挙げられるのが、貧困や紛争などの理由によって祖国で十分な教育を受けられず、場合によっては1度も学校に通ったことがないままスウェーデンにやってきた若者が少なくないこと。十分な教養や再出発に役立つ経験を持ち合わせていないのだ。

 つまり、外国人としての苦労(差別や偏見など)のほかに、そういった難しい問題も抱えているのである。ゼバ氏は「祖国で十分な教育を受けられずにスウェーデンにやってきた子どもの場合、授業についていくことができずにドロップアウトしてしまうことが多いです。スウェーデン人、それに先進国で暮らす日本人には考えられないでしょうが、それが現実なのです」と話す。

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