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コラム 2026.10.3 11:30

マンCに違反認定。でも「オーナーの金」は悪なのか? 巨大資本が変えたプレミア、「FFP」が生まれた背景とは【サッカーとお金】

シェイク・マンスール カルドゥーン・アル・ムバラク フェラン・ソリアーノ
手前左から、マンチェスター・シティ、オーナーのシェイク・マンスール、カルドゥーン・アル・ムバラク会長、フェラン・ソリアーノCEO【写真:Getty Images】



 プレミアリーグの独立委員会は、マンチェスター・シティに重大な財務規則違反があったと認定した。だが、そもそもなぜオーナーによる資金投入は制限されるようになったのか。ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)はなぜ生まれ、サッカー界の競争環境をどう変えてきたのか。プレミアリーグを中心にその歩みをたどりながら、「公平な競争」とは何かを考える。(文・金山悠吾)[2/2ページ]

経営の健全化か、競争の流動性か

マンチェスター・シティ
2008年のADUGによる買収から約4年で、44年ぶりのリーグ優勝を果たしたマンチェスター・シティ【写真:Getty Images】


 FFP導入後に欧州クラブの財務指標が大きく改善したことも事実だ。

 UEFAによれば、欧州トップディビジョンのクラブ全体では、2009年に16億ユーロだった純損失が2018年には1億4000万ユーロの黒字へ転じ、期限を過ぎた未払いもほぼ解消された。

 赤字や未払いに歯止めをかけるという意味で、FFPが目指した方向に欧州サッカーが動いたことは間違いない。

 一方で、オーナー資金がもたらしたのも、負の側面だけではないだろう。

 アブラモビッチの資金を背景に急速に力をつけたチェルシーは、それまでマンチェスター・ユナイテッドとアーセナルを中心に回っていたプレミアリーグの勢力図を変えた。

 その後、ADUGに買収されたマンチェスター・シティも巨額の投資によって強豪へと成長し、新たな勢力としてタイトル争いに加わった。

 もちろん、今回認定された財務規則違反を、そうした歴史を理由に正当化することはできない。ルールを回避した行為と、オーナー資金そのものが競争にもたらした効果は分けて考える必要がある。

 そのうえで考えれば、オーナーマネーは移籍金や給与を押し上げ、「軍拡競争」を加速させた一方、長年築かれてきた既存の序列を壊す力でもあったという見方はできる。

プレミアリーグも変わり始めた

プレミアリーグ
クラブの財務健全性と競争バランスの両立を目指し、プレミアリーグは2026/27シーズンから新たな財務規則を導入した【写真:Getty Images】


 そして近年、プレミアリーグ自身も、その両面を意識した制度へと変化している。

 UEFAのFFPとは別に、プレミアリーグにも独自の財務規則が設けられてきた。2026/27シーズンからは、それまでの「Profitability and Sustainability Rules(PSR、収益性・持続可能性規則)」に代わり、「Squad Cost Ratio(SCR、チームコスト比率)」などからなる新たな制度が導入された。

 SCRは、選手や監督の給与、代理人手数料、移籍金の償却費などを、原則としてサッカー関連収入と選手売却損益などの85%以内に抑えるという制度だ。一方で、一定の超過余地を設け、「収入に先行した投資」を認める仕組みも盛り込まれた。

 さらに、UEFA大会に出場するクラブにはUEFAの70%ルールが課される一方、欧州大会に出ていないクラブはプレミアの85%ルールが適用される。

 プレミアリーグは、この差を設ける理由について、欧州大会から追加収入を得ていないクラブにも、既存の欧州常連クラブと出場権を争えるだけの余地を与えるためだと説明している。

 つまり、「クラブの収益力に応じて支出を管理する」という基本思想を残しながら、後を追うクラブにも一定の先行投資を認める方向へ制度を修正したということだ。

 経営の安定性を守りながら、挑戦するための投資余地も残す。この制度は、「公平な競争」を実現するために、現時点でプレミアリーグが示したひとつの答えだといえるだろう。

次の「挑戦者」は生まれるのか

プレミアリーグへの抗議
2023年、財務規則(PSR)違反による減点処分に抗議するエバートンのサポーター。財務規則のあり方をめぐっては、クラブやファンの間でも議論が続いてきた【写真:Getty Images】


 では、その新しい枠組みの中から、かつてのチェルシーやマンチェスター・シティのように、既存の勢力図を大きく塗り替えるクラブは再び現れるのだろうか。

 その「次の挑戦者」を生み出すオーナーの姿自体も、かつてとは変わっている。

 米金融情報会社「PitchBook」によれば、2025/26シーズン開幕時点で、プレミアリーグ20クラブのうち11クラブにプライベート・エクイティやベンチャーキャピタルなどの民間投資資本が関与していた。

 クラブを取り巻く資本のあり方も変わっている。現在では、クラブそのものを「投資対象」として捉え、企業価値の向上や収益を求める投資家の存在感が増した。

 規制を緩めれば、クラブを愛し、その成功のために私財を惜しみなく投じるオーナーが現れるとは限らない。今の時代に、ブラックバーンをプレミア制覇へ導いたジャック・ウォーカーのような、パトロン型オーナーの再来を期待するのも楽観的だろう。

 そもそも、リーグの勢力図を大きく変えた巨額資本も、別の問題と無縁ではなかった。アブラモビッチは2022年、英国政府からロシア政府との関係を理由に制裁対象とされ、マンチェスター・シティのアブダビ系オーナーには、長年、人権団体などから「スポーツウォッシング」との批判が向けられてきた。

 だからこそ、問われるのは、オーナー資金を自由にするか、厳しく制限するかという単純な二択ではない。

 どのような資本を受け入れ、その資金をどこまで競争力に変えることを認めるのか。クラブの持続可能性を守りながら、既存の収益格差を固定せず、新たな挑戦者が生まれる余地を制度の中にどう残すのか。

 マンチェスター・シティの一件は、一クラブがルールを守ったかどうかだけではなく、サッカーにおける「公平な競争」とは何なのかを、改めて考えるきっかけになるのかもしれない。

(文:金山悠吾)

【著者プロフィール:金山悠吾】
2001年生まれ、神奈川県出身。2026年よりフットボールチャンネル編集部に所属。3歳のころにYS横浜のサッカースクールでサッカーを始めるも、幼少期から「やるより見る派」。2006 FIFAワールドカップの録画を何度も繰り返し見て育つ。2010/11シーズンをきっかけにバルセロナに魂を奪われ、以来、ラ・リーガを中心に海外サッカーを追いかけ続けている。フットボールの尽きない魅力に惹かれながら、日々勉強中。

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