FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)は、政治や社会問題の影響を強く受けている。英紙『ガーディアン』のネスリン・マリク氏は15日、今大会をめぐる論考を掲載し、「かつてW杯は政治を少しだけ味わわせてくれた。今では政治に飲み込まれている」と指摘した。
『ガーディアン』の記者がW杯は「政治に飲み込まれている」
マリク氏は、これまでのW杯を自身の人生とともに振り返った。1990年大会でカメルーン代表のロジェ・ミラが見せたゴールパフォーマンス、1994年大会でロベルト・バッジョがナイジェリアを破った試合、2006年大会でジネディーヌ・ジダンが頭突きによって退場した決勝戦。W杯は、サッカーの記憶と人生の思い出が結びつく特別な大会だったという。
しかし、2026年大会はこれまでとは違う。
マリク氏は、黒人選手やアフリカにルーツを持つ選手が多くプレーする現代のW杯では、ファンが応援するチームを選ぶこと自体にも、さまざまな背景が関わると説明した。
まずアフリカのチームを応援し、敗退すればアフリカにルーツを持つ選手がいるチームを応援する。さらに、自分が暮らしたことのある国や、チームのスタイルが好きな国を応援することもある。マリク氏は、こうした応援先の選び方を「アイデンティティーの数学」と表現した。
ところが今大会では、こうした楽しみ方にも政治的な問題が重くのしかかっているという。
開催国アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領をめぐる問題が大会を揺るがした。米国代表選手のレッドカード処分にトランプ大統領が関与したとされる問題や、FIFAが同大統領に「FIFA平和賞」を授与したことを、マリク氏は批判している。
また、欧米で広がる反移民的な言説や人種差別も、W杯と無関係ではないと指摘した。
フランス代表FWウスマン・デンベレやキリアン・エムバペ、イングランド代表の黒人選手たちなどは、単にサッカーをする選手であるだけでなく、人種や移民をめぐる社会の議論の中に置かれてしまっているという。
さらに、エジプト代表のゴール取り消しをめぐっては、FIFAがアルゼンチンを優遇したのではないか、エジプトが政治的な発言への“報復”を受けたのではないかといった陰謀論も広がった。
マリク氏は、こうした状況について「スポーツ組織や政治機関への信頼が失われている以上、何か不審なことが起きていると考える人を責められるだろうか」と記している。
W杯は、国と国が戦う大会。政治と完全に切り離すことはできない。それでも、マリク氏が望むのは、かつてのようにサッカーを純粋に楽しむことだという。
「私はいつも通りサッカーを見たい。試合のたびに講義を受けたくない。すべての試合が植民地主義や地政学のたとえになり、すべての判定が疑われ、何らかの意図があったものとして扱われるW杯は望んでいない」
政治、移民、人種差別、FIFAへの不信。さまざまな問題が絡み合う北中米W杯。英紙『ガーディアン』は、サッカーを楽しむためのW杯が、社会や政治の対立を映し出す場になっている現状を描いている。
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