フットボールチャンネル

代表 11年前

繰り返された南アの悲劇 レ・ブルーはなぜ内部崩壊したのか【欧州サッカー批評 6】

text by 田村修一 photo by Kazuhito Yamada

ナスリのプレーの遅さは我慢の限界だ

 ナスリを指しているのは明らかだった。リベリが宥めるのも聞かず、彼は「満足のいく処遇が受けられないならば、今すぐ家に帰してくれ」とまで、ブランに向かって息巻いたのだった。「たしかに熱かった。でも負けたときのロッカールームはだいたいこんなものだよ」と、翌日の会見でブランは語った。

 このとき彼は、「冷たいシャワーを浴びて、みんな気持ちが収まった」と、その場限りの諍いであったことを強調したが、実際には「問題の解決に多くのエネルギーを費やした」と後日、明かしている。

 準々決勝のスペイン戦を前に、フランスは問題が山積していた。守備の要であるフィリップ・メクセスが、累積警告で出場できない。このことでメクセスは、不必要なファールで無用の警告を受けたと、コーチのアラン・ボゴシアンから批判されていた。また負傷明けのアルー・ディアラも、もともとコンディションに難があり、8日間で3試合が限界で、スペイン戦は出場できる状態ではなかった。

 さらにナスリの問題があった。彼のプレーの遅さは、もはや選手たちの間でも我慢の限界に近かった。たとえば3タッチのミニゲームで、選手のほとんどが1タッチか2タッチでボールを処理するなか、ナスリだけが3タッチでコントロールしていた。試合になるとさらに端的で、彼だけが他の選手と比べタッチ数が極端に多かった。

これで俺の育ちの悪さをあんたも書けるだろう

 レキップ紙の直前の調査では、寄せられた9万近いSMSのうち、ナスリを起用すべきでないという意見が8割を超えた。そしてブランも、スペインに対し守ってカウンターを狙う戦術オプションを選択し、ついにナスリをスタメンから外したのだった。

 だが、ホーム(フランスは大会中のベースをドネツクに置いた)ともいえるドンバスアリーナにスペインを迎えての一戦は、フランスの完敗に終わった。そして試合内容以上に、試合中と試合後の選手たちの行動が問題視された。

 交代でピッチに入ったムネズは、ロリスにコーナーキックの際の位置取りを注意され、激高してロリスに食ってかかった。その数分後に彼は、レフリーに暴言を吐いて「大会を通じて最も愚かな警告の1つ」(レキップ紙)を受けた。またオリビエ・ジルーとの交代を命じられたヤン・ムビラは、不満げにジルーとの握手を拒否し、ブランも無視してベンチに直行した。

 さらに試合後のミックストゾーンでは、ナスリが再びメディアと衝突した。コメントを求めるAFPの記者に対し、「また糞みたいなものを書くためのネタ探しか」とだけ述べて立ち去ろうとした。「それなら君のコメントには興味ない」と記者が応えると、記者を侮辱する言葉を吐いたうえに、「これで俺の育ちの悪さをあんたも書けるだろう」と言い放ったのだった。

1 2 3 4

KANZENからのお知らせ

scroll top