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繰り返された南アの悲劇 レ・ブルーはなぜ内部崩壊したのか【欧州サッカー批評 6】

text by 田村修一 photo by Kazuhito Yamada

ロリス「試合中は丁寧な言葉づかいをする暇などない」

 以上が起こったことのすべてで、これ以上でもこれ以下でもない。

 翌日、ムビラは、「直接(ピッチの)外に出たのは、負けているときに少しでも時間を無駄にしないためであり、オリビエ(ジルー)に対してもコーチ(ブラン)に対しても、含むところは何もない」と釈明した。 またナスリは数日後に自らのツイッターで「サポーターやとりわけ子供たちに、僕の言葉が衝撃を与えたのは申し訳なく思っている」と述べている。

 そしてムネズに関しては、「最初にきつく言ったのは自分の方だった」と、もう1人の当事者であったロリスは告白している。「試合中は丁寧な言葉づかいをする暇などないだろう。お互いが相手に矢を放つが、試合が終われば忘れる類のことなんだ。だから僕は、自分が彼に何を言ったか覚えていない。汚い言葉だったのは間違いないが」(ロリス)

 スウェーデン戦後のロッカールームについても、どのチームにも起こり得ることであるとロリスは言う。それが選手同士、選手とスタッフのやり取りである限り、お互いに言いあえば気が済んですぐに忘れる。実際、ナスリとディアラは、翌日にはまるで何事もなかったかのように、親しげに言葉を交わしていた。ところがいったん情報が外に漏れると、様々な解釈が加えられ、虚飾も入りまじり針小棒大に伝えられる。そこに問題があると、ロリスは指摘する。

小さな綻びは容易に大きくなり、チームに甚大な影響を与える

 では、今回の場合、情報は意図的に漏らされたのだろうか。そうであるならば、そこにマネジメントの不備、チーム破綻の要因があったのではないか。

 ウクライナで起こったことは、2年前のクニスナ――選手全員がチームに反旗を翻し、練習をボイコットした事件とは、比べるべくもない。ナスリとメディアのトラブルを除き、どれもが小さなエピソード――たとえ選手のモラルと規律に問題があるにせよ――にすぎない。

 だが、その小さな綻びは容易に大きくなり、チームに甚大な影響を与える。そうしてフランス代表は、内部から崩れていった。

 チームとともに3週間を過ごし、その様子を間近から見続けたノエル・ルグラエット・フランスサッカー協会会長は、問題の4人(ナスリ、ムネズ、ベンアルファ、ムビラ)を規律委員会で諮問することに決めた。南アフリカで地に墜ちた代表のイメージを回復できず、スポンサー離れが懸念されるうえ、半年後の会長選挙に向け失点をできるだけ避けたいグラエットには、事態を看過することはできなかった。結局、ナスリには3試合、ムネズには1試合の出場停止処分が課せられた。

 また大会後、ブランとルグラエットも袂を分かった。一度はブランの契約延長で、両者は合意しかけた。しかしグラエットは、最後までブランに全幅の信頼を寄せず、それを感じての、ブランの側からの辞任申し出であった(その後、ディディエ・デシャンの監督就任が決まった)。

初出:欧州サッカー批評6

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