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独占インタビュー 西野朗『超攻撃の美学、勝負師の哲学』(後編)【サッカー批評issue 56】

text by 永田淳 photo by Kenzaburo Matsuoka


西野朗【写真:松岡健三郎】

選手を観察する意味と出し続ける攻撃のメッセージ

――實好礼忠コーチが「西野さんの起用や采配は、一見つながっていないようなところも全部つながっている」という話をされていて、選手が「西野さんにはすごく見られていると感じる」と口をそろえるのですが、普段から「見る」ということは大事にされていますか?

「基本そういうところは厳しいというか、ボーッとしているようで見ているよ。見逃さないようにね。見て、自分の中でいろいろ想像する。監督に求められる資質としては本当にいろいろなものが大事なんだけど、特に思うのはよくチームを見て、それを分析して、想像してどう膨らませられるか。それを柔軟に使えるかどうかを判断して、その上に指導者としての感性とかオリジナリティーを出していく感覚かな。

 チームというのはいつも生きているから、よく見ていなければいけない。『ここで何ができるんだ、何をしたらいいんだ』と思うほど処方が効かないような状況に(気持ちが)ダウンすることもある。例えばスタッフと選手がうまくいっていなかったり、さまざまなマイナス要素があって、その中で1試合負けてさらに落ちることもある。そういう時は何が悪いのかを見なきゃいけない。

 選手の朝の顔色1つからどういう状況なのかを考えるし、フィジカルコーチがどういう接し方をしているのかなということも見なければならない。選手を呼んで話したり、1人ひとりをしっかり見る必要がある。それは1メートルの距離じゃなくても見えるし、他の物事と同じように離れたところからの方がしっかり見えることもある。選手たちは見られていないと思っているかもしれないけど、そういう仕事は大事。

 確かにコミュニケーション力というものも大事だけど、観察していなければ何も感じられないし、見ていれば必ず感じる。2人組のメニューではいつも同じ選手とパートナーを組んで、同じ選手と食事して、同じ選手と帰っていくというメンバーもいる。食事の時は選手が全部見渡せる場所に座るんだけど、そこから何を食べているか、誰と一緒に食べるかということを観察する。そういうところからチームに影響してくることっていうのはすごくあるんだよね。

 一週間一緒に練習をしていて、お互い話していない選手というのもいたりするから、キャンプの時は朝昼晩と必ず違うテーブルで食事しろと言う。そうすると話が変わるし、仲間も変わってきたりする。『見る』っていうのはただ見るだけじゃなくて、(選手が)何を考えているのかまでを想像すること。次に向けてチーム力を上げていくために、柔軟に組み合わせることを考える。その上に自分のゲームに対する判断力、自分らしさを出していく。こだわりを持ちながらそれをやっていくことが大事かなと思う」

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