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ファビオ・カペッロ「英国のフットボールはもはや、発祥地のそれにあらず」(後編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

イタリア人監督の特徴

――ディ・マッテオの他、かつてのビアッリやゾラ、アンチェロッティ、そしてマンチーニなど、イタリア固有の哲学が注入されたことで、プレミアに少なからず影響を与えているように思われます。とすれば、その影響とは?

「勝つための戦術、勝ち点を得るために最も効率的で、確率の高い戦い方、そして、負けないための策。これを執拗なまでに追求する姿勢、探究心。これが、いわゆる『イタリア派』と言われる監督たちの最たる特徴だ。

 あくまでも配下に置く選手個々の能力、特徴を見極めて、その総和としてひとつの形をイメージし、具体的に作り上げ、結果としてシステムになる。ところが多くの場合、これが逆転しているのが現実だ。要は、多くの監督たちが形(システム)ありきでチームを作ろうとするのに対し、我々は違う。そこにイタリア人監督の特徴があると言えるだろう。

 いわゆるマキャヴェリズム、目的は手段を正当化するという考え方があるが、我々はあくまでも手段の考察を前提とし、その過程でシステムを導き出していく。当然だが、我々はその手段に細心の注意を払い続け、誤りを修正し、執拗かつマニアックなまでに、勝つために最も効率的な策と効果的な手段を研究しようとする。とはいえ、もちろん我々が常に勝つとは限らない。だが、長きにわたって重ねてきた文化は、イタリアサッカーの普遍的な思想となり今日に至る」

――最後に、今季のサッカー界で最も注目される点を語っていただけるでしょうか?

「最後に述べておくのは、この先も過去の歴史がそうであったようにドイツ、フランス、オランダ、イングランドやイタリア、そしてブラジル、アルゼンチンら伝統国がスペインに続く存在であり続けるのだろうが、間もなくそこにもうひとつの代表が名を連ねるであろうということ。私は昨日(2012年7月19日)、正式にロシア代表監督の座に就いた。

 ならば、このカペッロのロシアが果たしてどのようなチームに変貌を遂げ、どういった戦い方を見せるか。あるいはイングランドを、またあるいはイタリアを、さらにはあの王者スペインを相手に一体どのようなサッカーをみせるのか。プレミアを初めとする各国リーグ、CLに熱い視線を送るであろう日本の諸君にも、できることならば、是非とも今後のロシアにも注目してもらえればと思う。

 もちろん私は、これからもサッカーの本質である『攻守のバランス』に腐心しながら、サッカーの母国イングランドで得た経験を糧に、チーム作りを進めていく」

【了】

初出:欧州サッカー批評6

プロフィール

ファビオ・カペッロ
1946年6月18日生まれ、イタリア出身。選手としてスパルでプロデビュー後、ローマ、ユベントス、ミランと名立たるビッグクラブを渡り歩き、4 度のスクデットを獲得。イタリア代表としても32試合に出場し、8ゴールを記録。華々しい現役生活を終えると、1986-87シーズン途中にミランの暫定監督に就任し、監督キャリアをスタートさせる。後に4 年のブランクを経て、当時世界最強と謳われたミランをアリゴ・サッキから引き継ぎ、就任初年度から無敗優勝を含む3 連覇を達成。その後レアル・マドリー、ローマ、ユベントスと就任したクラブすべてを優勝に導いた。07年から自身初のナショナルチーム監督としてイングランド代表監督を率いて、12年7 月にロシア代表監督に就任。

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