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INAC神戸レオネッサの航海図

text by 河崎三行 photo by Kazuhito Yamada

文会長の考えるサッカークラブ経営

 所属全選手に実質的プロ待遇が提供されるようになったのは、07年途中からのこと。5人ものプロ選手を擁しながら、このシーズンは夏まで1勝もできていなかった。

「このまま2部に落ちるわけにはいかない、やるなら一度とことんやってみようと。アマ選手の各職場の人間に聞いてみたら『選手に就業時間の途中で抜けられると、ローテーションが崩れるなどして全体の仕事に支障が出ることが多い。自分達がその分がんばって働くから、かえって選手にはサッカーに専念してもらった方がいい』と言う。そこで企業所属のままで、職務としてサッカーをやらせることにしました」

 全選手がサッカーに集中できる効果はてきめんで、結局4位でシーズンを終えることができた。

 そして昨季はリーグ戦こそ4位だったものの、リーグ終了直後に星川新監督が就任するやチーム改革に着手し、男子の天皇杯にあたる全日本女子選手権で優勝。悲願のクラブ初タイトルをもたらした。シーズン途中での監督交代を自ら決断し、星川氏を直々に招聘した文会長は、「僕の眼に狂いはなかった」と満足げだ。

 11年度のプロ契約選手は澤、大野、韓国の2選手の計4名。他の選手はすべてアマチュア契約である。今では外部企業も2社加わった計4社でアマ選手達を『雇用』している。各選手の給料はチームへの貢献度によって監督、強化担当者に査定される。戦力として機能していないと判断されれば、契約は更新されない。厳格な競争原理が働いているという意味でも、I神戸は実質的プロチームだ。

「最終的には、選手1人ひとりをそれぞれ異なった企業で雇用していただくのが目標です。多くの企業で支えるようになれば景気に左右されるリスクは減り、クラブ経営が安定しますからね。そして選手は、各企業のいわば広報ウーマンとしてI神戸でプレーするわけです」

 だがよほどのことがない限り、選手の所属企業名は表に出てこない。給料を支払う側にしてみれば、金額に見合ったPR効果を期待できないのではないか。今は雇用主の半分が文会長のグループ企業だからまだ鷹揚だろうが、外部からの新規参入企業にとってみれば、費用対効果は無視できないポイントだ。

「例えばヨーロッパのサッカークラブオーナーが、出資に見合う本業のPR効果を得ているかといえば、必ずしもそうではないでしょう? しかし欧米でスポーツチームを持つことは、経済界や社交界においては一種のステイタスになるんです。それはつまり、広い意味での社会貢献だから。I神戸でも、選手の雇用先がそれぞれクラブオーナーであるという理解をいただきながら、協力企業を増やしていきたいんです。PR活動であると同時に、社会貢献でもありますよ、と」

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