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部活とクラブの融合に成功した男 広島ユース監督・森山佳郎の退任

text by 大島和人

本物の精神力が、広島ユースの選手には身についている

 言葉にするだけでなく、愛情を込めて、繰り返し丁寧に指導するから、メッセージが選手に伝わるのだろう。更に言えば。陽性でユーモアあふれる“ゴリさん”の人間性があるから、選手に肉体的なストレスを乗り越えさせられるのだ。クラブユース選手権がJビレッジで行われていた頃、私はいつも広島ベンチの後ろで森山監督のハーフタイムトークを“盗み聞き”していた。

 肥後弁で訥々と語りかけるゴリさんの言葉は、傍観者すらその気にさせる“引力”があった。広島ユースといえば「高校生年代のチームの中で、一番逆転の多いチームじゃないかな?」(森山監督)という粘り強さが伝統だ。“辛いこと、嫌なことに耐えられる”というレベルに止まらない、“どんな時も希望を失わない”という本物の精神力が、広島ユースの選手には身についている。

 冒頭に挙げた森脇、槙野は決して“ソツがない”タイプではない。森山監督の人間教育は自分を抑え、上に従うという“体育会型アプローチ”の真反だ。オフ・ザ・ピッチではバカも買って出て、チームを活気付ける。でも勝負では全力を出し、誰よりも身体を張る。そういうパーソナリティを引き出すことが、森山佳郎という指導者ならではの名人芸だ。部活の長所を“いいとこ取り”して、外来のサッカー文化と融合させたところに彼の到達点はある。

“馬鹿ポジティブ”な森山監督なら、不本意な退任も糧として、また新たなやりがいを見つけるだろう。今はただ、彼の手腕が引き続いて日本サッカーの中で生かされることを信じたい。またサンフレッチェ広島が、育成組織の素晴らしいカルチャーを維持させることを願ってやまない。

【了】

提供:サッカーを読む!Jマガ

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