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部活とクラブの融合に成功した男 広島ユース監督・森山佳郎の退任

text by 大島和人

 森山監督がもたらした影響は、広島という1クラブの範囲に止まらない。彼の成功を見て、精神面を重視し、“出し切らせる”ことを重視する指導者が、Jの育成組織にも増えた。森山監督のアプローチは、しばしば“部活的”と称される。監督本人もそんな評価を「サンフレッチェ高校と高体連の先生方に言ってもらえるのは一番の褒め言葉」と誇りにしている様子だ。広島ユースは寮で寝食を共にし、部活特有の“朝練”もある。「1年生は役割があって、ちゃんとできなかったら坊主」(平田惇)というペナルティすらある。

「気持ちには引力がある」をキーワードにして、精神面を重んじるのも森山監督の特長だ。「プレーだけでなく人間的な部分まで全てを教わった」(野津田岳人)と、教え子も森山監督の指導を振り返る。練習内容が激しく、選手を追い込むのも彼の特徴だ。監督本人は「良いか悪いか分からない」と言うが、日々の紅白戦すら「勝負にこだわって、負けた方が走る」のだという。球際の激しさへのこだわりから、ファウルをすべて流すこともある。

広島ユースは「誰一人として見捨てない」

 高校生の寮生活には、上下関係などに起因するトラブルがつきものだ。例えば2011年には青森山田高の野球部寮で、後輩に対する暴行・死亡事件が起こっている。往年のPL学園は1年生が洗濯などの雑用に追われて、睡眠が取れるのは夜でなく授業時間だったという。しかし、全寮制、朝練、猛練習といったある種のスパルタ的要素がある広島ユースでは、そのような話がまったく聞かれない。

 広島ユースは「誰一人として見捨てない」(森山監督)ことが流儀で、途中で辞める選手は皆無に近い。キャプテンの平田に聞くと「みんな仲がよくて、1年生も3年生に話しかけられるし、学校や練習も一緒に行く」のだという。「真面目にやる部分と、ふざける時の切り替え」(平田)も、このクラブならではの特長だ。1年生が3年生に話しかける時だって「先輩」でなく「くん付け」である。そもそも森山監督は決して偉ぶらないし、自分を「監督」とも呼ばせない。監督を“ゴリさん”と呼ぶのが、広島ユースのしきたりである。

 こういう雰囲気作り、マネジメントこそが、森山監督ならではの強みなのだと思う。彼に聞くと「そういうこと(人間関係のトラブル)もありますよ」と認める。ただ「それをみんなで見つめ直したり、どうしたらいいだろうか? みたいなことを考えていければ、逆にチャンス」なのだという。森山監督はよく「馬鹿ポジティブ」と自らを称するが、そういうメンタリティは間違いなく選手に“伝染”し、広島ユースは陰湿さと無縁だ。

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