【育成大国ニッポンの作り方】香川真司の源泉をめぐる旅(後編)

2013年01月04日(Fri)16時46分配信

text by 安藤隆人 photo Kenzaburo Matsuoka
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セレッソ大阪で高められた成長速度【写真:松岡健三郎】

凡庸だったスピードを打ち消した志の高さ

 強烈な向上心と、段階的に目標が設定できる強さ。これに周りの環境整備がマッチし、彼はここからさらに成長速度を上げていく。プロ1年目は出番こそなかったが、彼がより高みに行くための大きなターニングポイントになった1年となった。

 ここまで、彼のプレーの特徴に運動量をあげたが、『スピード』について記述していないことに読者の方々は気付いただろうか。今のプレーからは考えられないかもしれないが、当時の彼は『スピードが無い選手』だった。ボールコントロール、ファーストタッチ、戦術眼、運動量、パスセンス、すべてに非凡なものを持っていたが、ことスピードだけは足りなかった。50mを走らせても平均で、決してずば抜けて速いわけではなかった。事実、小菊も日下も彼がプロになるにあたって、その点を危惧していた。

「技術は通用していた。ただ、当時はスピードが遅くて、懸念材料でした。彼にもそれは伝えていたし、認識していた」

 スピードと言っても50m、100mの速さだけが求められるわけではなく、3m、5m、10mのスピードも重要だ。そこに判断スピード、ボールタッチのスピードなど様々な要素が絡まり、相手よりいかに優位に立つかという相対的な対比論もある。今の香川が決して魔法を掛けられて、進化したわけではない。彼は自身にスピードが無いことを理解し、判断のスピード、ボールタッチ、相手の逆を突いたり、相手より優位に立てるポジショニングの質を磨き上げたのであった。そして、それに伴うフィジカルの強化。

「今は日の目を見なくていい。目立たなくていいから、地道に上で戦える力を身に付けたい」

 彼は焦ることなく、現状を理解し、プロ1年目の1年間で意欲的に課題の解消に努めた。

「真司のようにスピードが無いと判断された選手には、そういう評価で終わってしまう子はたくさんいた。でも僕らも彼から多くを学んだのですが、すべてのスピードをトータル的に支えるのは、やはり勤勉さだと思います。勤勉に何度も何度も積み重ね、筋トレして、食事もしっかり考えて摂れる選手は、身体が出来上がってくるにつれて筋力もついてくる。後はサッカーを真剣に考えているから、相手より先手を取ったり、予測をすることを楽しめるし、工夫が出来る。やっぱり辿り着くのが、サッカーが好きか、本当にサッカーを愛しているのか、高い志を持って取り組めているか。そこなんです」(小菊)

 サッカー小僧はこの1年間で劇的に変化をした。若干17歳の少年が、徐々に当時日本代表クラスの選手が揃っていたチームにおいて存在感を放ち始めたとき、彼に更なる上のステージを与える人物が現れた。

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