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サッカーを遊ぶ南米、サッカーを遊ばない日本(前編)

text by 植田路生 photo by Kenzaburo Matsuoka

ブラジル人はじゃんけんでも人を騙そうとする

「僕が指導するチームがケラミック・カップっていう大会に出たんですね。この大会は5対5の壁当てサッカーなんです。壁に当てて、日本風に言うといっぱい数的優位をつくれるから面白い。実際、ヴェルディが優勝したんですけど、僕はもっとアイデア出ないのかね、って思った。多分、ブラジルのおじさんとかがやっても、もっとアイデアが出たと思う。シュートが外れて壁に当たって、こぼれたボールをあるチームが入れた。それを見て、『あ、次からはこうすればいいんだ』って、他のチームがやって、わかって、みんな大会をやるごとにうまくなっていく。どのチームも。

 それはマリーニョさんが言ったように、他のチームや味方を見ているから。見ていてうまくなる。でも、ブラジル人はそれをやったことがなくても、TVでやっていたりとか、小さいときからおじさんがやっているのを見ていたりするから、すんなりできる。だからそのアイデアの蓄積の数が全然違うからクリエイティブ度が違うのは当たり前だと思うんです。アイデア出せよ、と言われても、ベースがないところにアイデアは出てこない」

「面白いと思ったのは、ブラジルの小学生が日本に来て、日本人がじゃんけんを教えたんです。覚えが速い。じゃんけんぽんってやるとすぐ出すんです。あっち向いてホイでブラジル人、何やると思う? ブラジル人が初めてやったとき、上を指しているけど、手を下に下げたんです。騙そうとしているんだよね。頭を使って相手を負かそうとね。初めて遊んだ子がこういうことをやるか。手が下へ行くというとみんな上を向いちゃうでしょ。でも上を指してるじゃん。それ結構引っかかる子供がいたの」

――確かに引っかかりそうですね。

「それがはじめに話したスペイン語で言うと『フガール』、ポルトガル語で『ジョガール』。日本語の『遊んでいる』とか『プレイ』ってしか言い換えられないんですが、これもしっくりこない。将棋やチェス、カードゲームをする感覚なんです。駆け引きだったり、遊びがあるからサッカーは面白い、って思っているのが基盤。速く走って、高く飛んでとか、そんなことは二の次なんですよ」

【後編に続く】

初出:サッカー批評issue54

プロフィール

アデマール・ペレイラ・マリーニョ
1954年、ブラジル生まれ。サッカー指導者・解説者。1975年、札幌大学の留学生として来日。その後、フジタ工業(現・湘南ベルマーレ)に加入し、日本リーグで通算50 得点をあげる。フットサル日本代表の監督を務めたことも。

亘崇詞
1972年、岡山県出身。サッカー指導者・解説者。1991年、単身アルゼンチンに渡り、ボカ・ジュニアーズとプロ契約を結ぶ。高原直泰がボカに加入した際には通訳となる。現在は東京ヴェルディのジュニアユース監督を務める。

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