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A REVIEW OF FOOTBALL BOOKS サッカー版「ぼくの採点表」 第4回 『チョーコーイレブン 大阪朝鮮高校サッカー部の奇跡』

書評欄の失墜が叫ばれて久しい。読者を楽しませる芸もなければ信頼性もアヤシイ。本企画では新しく出されたサッカー本すべてを洞察し、採点していく。2012年1月24日から2月29日までの実用系以外のサッカー関連書をピックアップしていく。

『チョーコーイレブン 大阪朝鮮高校サッカー部の奇跡』

著者:本田久朔
(文芸社・1400円+税)
採点:☆☆☆★ 

『チョーコーイレブン 大阪朝鮮高校サッカー部の奇跡』

 2006年1月の大阪朝鮮高校サッカー部の高校選手権ベスト8入りまでを描いた最近では珍しいノンフィクションノベル小説。手だれの文章と構成で、スカイエマの表紙カバーイラストもいまどきだ。60年生まれの著者のこの軽やかな文章はなんなのだと思うぐらいにスラスラと読めてしまう。

 膠着する東アジアの政治的難題は持ち込まれず、強かった時代に公式戦参加を認められなかった「すべての在日朝鮮学校サッカー部OB」に捧げられている。(*実際は、東京朝鮮が1954年に「都立高」として一度だけ出場し、準決勝まで進んでいるが)

 ストーリーは2004年の秋から始まる。2005年1月に井筒和幸監督の『パッチギ』が公開され、68年の京都を舞台にした映画のヒットを受けてチョーコーサッカー部に微妙な変化が起きる。日本人の高校生を相手に恋や喧嘩に明け暮れる朝鮮高校の男子生徒がローファーを履いていたからだ。

 05年のサッカー部員がしびれたのは、当時の硬派スタイル。硬派菌に感染した彼らはスニーカーを脱ぎ捨てローファーに履き替えてしまう。だが残念なことに、大阪朝鮮高校はもう詰め襟ではなくブレザーなのだ。

 大阪朝鮮は優勝した“セクシーフットボール”の野洲高校(滋賀)にPK戦で敗れるのだが、乾貴士ら日本の高校生の名前は一切出てこない。全体のトーンを脆弱な良心/正義の発露だけと批判しそうな橋下某のような人もいるだろう。だが聞こえてきそうな雑音とは裏腹に作者の本田久朔(きゅうさく)は、スポーツ・ファンタジーとでも言うべき新世界を切り開いた。66点。

(帯の推薦文寄稿者の名前のほうが苦労して書いた作者の名前より目立ってしまう商慣習、なんとかならんもんかいな。井筒和幸監督かて心苦しい、ちゃうん?)

【了】

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