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A REVIEW OF FOOTBALL BOOKS サッカー版「ぼくの採点表」 第5回 『心は、強くなる~長友家式 人に愛される子どもに育てる 五感の方程式~』

書評欄の失墜が叫ばれて久しい。読者を楽しませる芸もなければ信頼性もアヤシイ。本企画では新しく出されたサッカー本すべてを洞察し、採点していく。2012年1月24日から2月29日までの実用系以外のサッカー関連書をピックアップしていく。

『心は、強くなる~長友家式 人に愛される子どもに育てる 五感の方程式~』

著者:長友りえ
(ワニブックス・1300円+税)
採点:☆☆☆★★

『心は、強くなる~長友家式 人に愛される子どもに育てる 五感の方程式~』

 2012年2月に読んだ7冊中唯一のハードカバー。アートディレクター宮崎謙司率いるlil.inc の装丁にも一日の長がある。大きな帯に長友佑都のカラー写真はあるにしても、実際は母親の本である。“ハンカチ王子”ブームのときにもこの種の本はあった。年長者に何かしらの安堵感を与える存在という点で長友、斎藤佑樹は案外近いのかもしれない。

 特化されるのは、子育てである。著者は、佑都小学3年次に離婚。冠婚葬祭の司会業で母子4人の家族を切り盛りしてきたという。背負ったハンディをあえて隠さずに「親一人でも、お金がなくても、時間がなくても、子どもの夢は叶う」のあたりにシングルマザーの心意気が感じられる。

 7ヵ月たってやっと歩いたことやポットン便所の生活に耐えたことも明かされ、記号ばかりが浮遊する脱近代の今とは違う「生きている」実感がリアルに伝わる。エピソードとトピックはイタリアでの活躍を背景にますます輝きを増す。

 孟母の教えを彷彿とさせる高校選び、特別なこと以外で叱らないある種の楽天性という風に五感フル稼働による女手ひとつの子育てに教えられる点が少なくない。ポンプを使わなくても水の噴出するうちぬき水で有名な愛媛県西条市のお国自慢も織り込めば、さらに完成度が増したかもしれない。69点。

(131頁に突如出てくる長友家のカレーレシピはサイコロ切りした牛肉ふんだんでかなりリッチ。でもちょっと甘めで濃いのかも)

【了】

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