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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第五回

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

「ベストプレーヤーが言う事を聞かなかったら?」

 ファーガソンには、その長年にわたる栄光のストーリーに裏打ちされた比類なきリーダーシップから、政界とのかなり太いリンクがある。おそらく、アプローチの発信元は“向こう側”だと思われるが、ファーガソン自身も大いに乗り気だったようだ。

 だからといって、彼が今後政治家に転身するという意味ではない(年齢的にもありそうにない)。たぶん、“フィールド”こそ違え、同じく生き馬の目を抜く過酷な世界におけるリーダー同士としての共感のようなものが働いたのだろう。

 いや、“相方”の方はそれこそ、この偉大な先達の“徳”に実際に話をすることで学び、具体的な意見とアドバイスを欲したのに違いない。知られている限り、その最もポピュラーな実例が、1996年のメディア報道に記録されている。このときの相方は他でもない、まだ英国首相に選出される前の、若き労働党の党首トニー・ブレアだった。

 ブレアはファーガソンにずばり問いかけた。「もし、あなたのベストプレーヤーが言う事を聞かずに、あなたの意に反して勝手なことをしようとしていたら、どうしますか?」

 ファーガソンの答えは「チームから即刻弾きだしますよ」

 するとブレアは「それでも彼がドレッシングルームを出ていかなかったら?」

 その後の会話はどうやら明らかにされていないようだが、ここでブレアが示唆した「ベストプレーヤー」が、当時ブレアの腹心でこちらも後に英国首相に就任するゴードン・ブラウンだったことは、以前から労働党シンパだったファーギーにはお見通しだったらしい。

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