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Jリーグ 11年前

横浜F・マリノスの羅針盤

text by 佐藤岳 photo by editorial staff

社員に植えつけた成功体験

 採用されたアイデアは他にも数多くある。嘉悦が「最も感動した」と振り返るのは、スタジアムのホスピタリティに関する提案だ。ボランティアや警備会社の社員を含め1試合に少なくとも1000人はいるスタッフが全員一貫した接客を徹底できるように、クラブ独自のもてなしのコンセプトを1冊の冊子にまとめることにした。

 ホームゲームの4時間前には全員がスタジアム内に集まって接客の意思統一を行い、そこで毎回違うスタッフが接客の体験談を語り、共有することも恒例となった。プロモーション活動では近隣の人気コンテンツとのコラボレーションも積極的に実施。さらに数々の仕掛けをする裏で、嘉悦は壮大な計画も打ち出していた。翌2010年シーズンに向けて、前年度比で20%増の集客を目標に掲げたのだ。

 目標の設定の仕方も、日産流で考えたんですよ。09年が1試合平均2万2050人で、目指したのはこれのプラス20%。2万6500人を目標にしたんです。

 僕はこれに2つの意味を持たせた。一つは、20%増というのは今までの仕事の仕方じゃ実現できないよというメッセージ。5%だったら何となくこれまでの延長線上でもできなくはないけど、2割増やすとなると画期的なことをやらなきゃいけない。だから違う発想が生まれたわけです。一方で目標がとてつもなく大きな数字だとやる気が起きない。でも以前、2万6000人くらいに近い数字を達成できた年があった。そうなると20%増は社員の中でも届かない数字じゃないというとらえ方になる。

 これが大事なんです。インパクトのある、改革を要するような数字でなきゃいけないんだけど、一方で絶対手が届かない数字であってもいけない。その意味で20%は非常にいい頃合だったんです。

 これを目標値にしてやったら、結果的に16.4%増だった。20%には届かなかったけど、16%増やすというのは素晴らしい成果です。日産流で言えば、改革の一歩目は成功させないといけない。これが失敗に終わるともう改革の意欲は続かないですからね。あの時は初年度に高い目標の8割を達成し、社員が成功体験を持てたんです。


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