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高校サッカー心を揺さぶる物語。悲願の選手権メンバー入り、しかし父は末期ガンで…

text by 安藤隆人 photo by editorial staff

運命のメンバー発表

 選手権本大会のメンバー発表まで、あと半月となっていた。

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 僕にとってのラストチャンス。選手権本大会のメンバーから漏れれば、3年生はその時点で引退という約束だった。

「もういいよ、メンバーに入れるわけないから」

 Bチーム以下の3年生たちは、早々に諦めて、練習に来なくなるやつもいた。でも、僕は絶対に諦めたくなかった。一緒に練習する3年生がいないときは、監督やコーチに直談判をして、2年生の中に混じって練習に参加した。

 迷いがなかったわけじゃない。こんなことをして、本当に意味があるのだろうか。本当に監督やコーチは見ていてくれているのだろうか。あきらめて友達と遊んだほうが楽なんじゃないのか。

 でも、病気と闘い続けている親父の姿を思うと、そんな気持ちではいけないと強く思い直した。

「練習しなかったら、どうあがいてもメンバーに入れない。たとえ可能性が低くても、今は後悔のないようにやるしかない」

 僕は自分の心と戦った。

 そして、ついに運命の日――。
 
 僕らは会議室に集められ、壇上に立つ角谷監督が一人ひとりメンバーの名前を読み上げた。前に出てきた選手に、ユニフォームが渡されていく。
 
 登録メンバー25人のうち24人までが発表された。僕の名前はまだ呼ばれていない。最後の25人目の発表の瞬間、僕は目を閉じた。

「秋田慶人!」

 僕の名前だ。ギリギリでメンバーに選ばれた!

 壇上に上がり、背番号25のユニフォームを受け取った。身が引き締まる思いだった。

 その日の放課後、僕は病院に行き、親父に報告をした。

「そうか、良かったな」。親父はそっけなかった。

 母親は「がんばったからもらえたんだよ。やっぱり監督は見ていてくれたんだよ」と喜んでくれた。実は親父は選手権に出場したことがあって、親子二代での選手権出場を何よりも楽しみにしていたことを、僕は母親から聞いていた。母親の横で、嬉しいはずなのに、それを見せないでいる親父の姿があった。
 
 このとき、ガンの告知から、1年6ヶ月がたっていた。親父の病状はいよいよもって悪化していて、年を越せるかどうかだと、医者から告げられていた。毎日お見舞いに行っていたが、会うたびに痩せ細っていく親父を見て、「いよいよなんだな……」と、僕は覚悟を決めていた。

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