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世界最先端のコンディショニング理論が覆すサッカーの常識。“ただ走る”トレーニングで本当に選手は“速く”なるのか?

text by 鈴木康浩 photo by Yasuhiro Suzuki , J-DREAM

開幕を控えた指導者が陥りやすい罠

世界最先端のコンディショニング理論が覆すサッカーの常識。“ただ走る”トレーニングで本当に選手は“速く”なるのか?
各国代表チームやチェルシーなどでコンディショニングを指導してきたレイモンド・フェルハイエン氏【写真:(C)J-DREAM】

 相良が拠りどころにしているのは『サッカーのピリオダイゼーション』理論である。サッカー選手が試合の90分間、質の高いアクションを高頻度で繰り返しつつ、シーズン中に筋肉系のケガ人も出さないというコンディショニング理論。

 提唱するオランダ人のレイモンド・フェルハイエンは、W杯では2002年の韓国代表、EUROでは2004年のオランダ代表、2008年のロシア代表に帯同して、選手たちから持続的かつ爆発的なパフォーマンスを引き出してチームを成功に導き、自身の理論の有効性を度々実証してきた人物だ。

 相良はレイモンドに師事し、日本では通訳を務める。自身もオランダのアイセルメール・フォーヘルスというアマチュア名門クラブでコンディショニングトレーナーを4季担い、「年間の筋肉系のケガ人は1人か2人」というところまでコンディショニングスキルを上げている。

 この理論の最大のポイントは、選手たちのコンディションニングをサッカーから切り離さないことだ。レイモンドが持つ興味深いデータがある。15メートルダッシュのトレーニングを次の3つのパターン、

・単独で走る
・二人で競う
・ボールを出して二人に競わせる

 に分けて計測すると最後の「ボールを出して二人に競わせる」がもっとも速かった。つまりは選手同士の球際の激しいぶつかり合いである。サッカー選手が持つ本能を、サッカーによって100%、爆発的に引き出す術を実証したのだ。

 ところが、日本のサッカーシーンでは、未だにひたすら走る量を増やしてピッチ上の問題を解決しようとする習慣が是とされる。そこで当然ながら過負荷が生まれる。たとえば、プレシーズン。日本のプロクラブでさえキャンプで“素走り”に特化するケースがある。その結果、回復が追いつかずに疲労が蓄積してケガ人が続出する。

「オフが明けてから開幕まで6週間。指導者はどうしても早く効果を望みたいという不安から、チームへかける負荷を急激に上げてしまう。短期間で効果を上げようとすると持続するのが難しくなり、シーズン終盤には選手に疲労が蓄積し、チーム全体がペースダウンするケースが多々あります」

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