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セリエA 8年前

「取材に対して選手たちが“ギャラ”を求めてくる。勘違いするな」 ウーゴ・ルッソの魂【ラジオ・アナウンサーの矜持】

シリーズ:名ラジオ・アナウンサーの矜持 text by 宮崎隆司 photo by Takashi Miyazaki, Getty Images

42年にわたるラジオ実況者としてのキャリア

 こうして重ねてきたキャリアは、ラジオ実況者として42年、ジャーナリストとしては延べ48年。サッカーに限っても実況した試合の総数は4000。五輪など23競技の実況も含めれば通算5000試合に及ぶ。イタリアのスポーツ・ジャーナリズム史上最多である。

 そして、このウーゴと「リボルノ」の街は不思議な縁で繋がっている。それまで一度として実況したことがなかったリボルノの試合を初めて担当したのが2011年9月4日(リボルノ対ノチェリーナ)。

 ところが、その午後3時に始まる試合のおよそ1時間前、彼は突如として脳梗塞に倒れ、危篤状態は11日間に及んだ。しかし奇跡的に回復。後遺症も一切残らなかった。

「言葉を失わずに済んだ」彼は、翌2012年の3月には現場復帰を果たすのだが、その試合もまた「これがなぜかリボルノ戦、リボルノ対チッタデッラだったんだよ」。

 そして、ウーゴとその彼の渋い声を愛し続けたファンにとって最後の試合もまたリボルノ戦。これが冒頭に記した試合、2014年10月12日の「リボルノ対トラーパニ」である。

 セリエAやチャンピオンズリーグのような華やかな場所ではない、セリエBのスタジアムで幕を閉じるところがいかにもウーゴらしい。

 その試合、番組の開始当初からすでに感極まり声を詰まらせていたウーゴは、中継の終了が近づいたところで“ボス”から「ウーゴ、さぁ行け」と促されると、1秒ほどの間をおいてこう語り始めた。

「親愛なる友、リスナーの皆さん……。セリエB第8節、リボルノ対トラーパニは6‐0でリボルノの勝利です。今日は大敗を喫したトラーパニですが、この悔しさを糧に彼らはきっと再び前を向いてみせるでしょう。そして私、ウーゴ・ルッソは、ラジオのマイクを握り始めてから42年間……」

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