PSGの弱点を突いたチェルシーの狙い
PSGの数少ない弱点が上がったSBの裏のスペースである。右SBのハキミも左SBのヌーノ・メンデスも前線の選手とポジションを入れ替えながら高い位置を取る傾向が強く、彼らがボールを失った直後はCBの両脇に広大なスペースが生まれることが多い。
これは2024/25シーズンのCLでも相手チームの狙いどころになっており、チェルシーも例外なく何度もSBの裏を徹底的に狙った。この試合に関しては、レギュラー左CBのウィリアム・パチョが出場停止処分で不在だったこともあり、ヌーノ・メンデスの裏のスペースが狙いどころとなり、それが得点に結びついている。
22分の先制点はGKロベルト・サンチェスのロングボールが起点となり、ヌーノ・メンデスとマロ・ギュストがボールを競った際に入れ替わったところからゴールをゲット。30分の2点目はポルトガル代表DFが高い位置に上がっている中で、デンベレが中盤でパスを引っかけたところからSBの裏のスペースにコール・パーマーを走らせて得点を奪った。
チェルシーが徹底的に裏を狙ったことがデータに現れているのが、GKロベルト・サンチェスのスタッツ(データサイト『Sofascore』を参照)だ。彼は決勝前の時点の5試合で、最もロングボールを蹴っていたのがフルミネンセ戦の14本。次に多かったのがフルミネンセ戦の8本だった。
それがPSG戦では、両ワイドを中心に26本ものロングボールを蹴っている。
マレスカ監督は2024/25シーズンのプレミアリーグ第27節サウサンプトン戦後に、この試合でゴールマウスを守ったフィリップ・ヨルゲンセンに対して「ロングボールを蹴るのであれば交代する」と発言したと明かしており、これまでの戦いぶりを見ても最終ラインから細かいパスを繋ぐことが彼の理想のフットボールであることは明らかだ。
その哲学を変えてでも勝利にこだわった采配をみせたマレスカ監督の手腕は称賛されるべきだろう。最後の得点の部分に関しては、パーマーやジョアン・ペドロの質であることは間違いないが、チャンスを作るまでの過程はイタリア人指揮官の功績が大きい。
クラブW杯の開催は選手の疲労や環境面で批判を集めたが、チェルシーからすると、高額な優勝賞金だけでなく、各試合に向けたゲームプランやジョアン・ペドロら新戦力の台頭など、与えられた場所で最大限の成果をあげた。
依然として蓄積疲労は懸念点ではあるが、久々にCLへ出場する2025/26シーズン開幕も楽しみになる充実した1ヶ月間だったことは間違いない。
(文:安洋一郎)