サッカーへの情熱はすごい。しかしシチリア産のスターは…
ミッリ会長は、クラブがCFGの傘下に入る前からトレーニングセンターの改装とアカデミーの設立に着手していた。旧トレーニングセンターは、軍施設の一部で、改修は自由に行うことができなかった。このため、新拠点の開設は急務だった。
新施設は市内から約30キロの距離にあるトッレッタが選ばれ、2024年4月に竣工している。本拠地バルベーラのピッチと同じ大きさの天然芝のピッチ2面、GKトレーニング専用縮小サイズのピッチ、クラブハウスなどが設けられた。竣工式には、パストーレやアマウリなどのOBも駆けつけ、クラブの悲願であった自前のトレーニング施設の完成を盛大に祝福している。
シチリアは、まるでエトナ山のように、サッカーへの計り知れない熱量が噴き出す土地である。この地が輩出したアッズーリには、この3人の名前が浮かぶだろう。
1970年代にユヴェントスやインテルで活躍したピエトロ・アナスタージは、カターニアの生まれだ。シチリア南部のカルタジローネ出身で、森本貴幸のチームメイトとしてもプレーしたジュゼッペ・マスカーラも、1試合だけではあるがイタリア代表のユニフォームに袖を通している。
そして、この島を象徴するジョカトーレが、“トトー”の愛称で親しまれたサルヴァトーレ・スキッラーチだ。1990年ワールドカップで得点王に輝き、母国開催の大会で、その名のとおり“救世主”となった英雄だ。パレルモ出身のスキッラーチは、本土への玄関口であるメッシーナでプロキャリアをスタートさせ、ユーヴェやインテル、さらにはJリーグ黎明期のジュビロ磐田でゴールを量産した点取り屋である。
しかし、地中海最大の島であるこのシチリアにおいて、スター選手が次々と生まれてきたわけではない。とりわけ近年は、セリエAで活躍する“シチリア産”のプロ選手も少なく、イタリア代表に数多くの選手を送り出している北部のクラブと比べて、大差をつけられているのが現状だ。だからこそ、豊富な育成ノウハウを持つCFGの協力のもとに設立されたアカデミーには、大きな期待が寄せられている。
シチリアのクラブも近年、極めて厳しい戦いを強いられている。島の東端に位置するメッシーナは、かつて柳沢敦や小笠原満男も所属したクラブだが、05/06シーズンを最後にセリエAの登録はない。2017年にはイタリアサッカー連盟(FIGC)の決定によりレガ・プロから除外され、その後、破産。市の主導で後継クラブのACリウニーテ・メッシーナが誕生したものの、苦境を脱することはできずにいる。