故郷への帰還を遠ざけたカピターノの重圧
2021年夏、ローマには、ジョゼ・モウリーニョが新監督に就任した。フロレンツィの復帰を望んだとされるが、フロレンツィ自身がミラン行きを希望したと言われている。トッティとデ・ロッシの引退により、フロレンツィがカピターノを務めることになったが、サポーターからは厳しい目を向けられた。負傷後にコンディションが上がらなかったことだけが批判の理由ではない。
2019年夏のレアル・マドリードとのプレシーズンマッチでの表彰式での一幕もサポーターの不満をもたらした。優勝杯の代わりに“ボンサイ”が授与されると、主将のフロレンツィが、はしゃいで見せた。タイトル獲得から遠ざかっていたクラブにあって、こういった“軽いノリ”が、カピターノとしての品位に欠ける行動だと受け取る者もいた。
また、契約交渉が難航したことで、「多額の年俸を要求している」といった噂も広まり、風当たりはさらに強まった。そして、決定的だったのは、フロレンツィには、世界的な選手だったトッティのような唯一無二のオーラも、また魂を揺さぶるプレーヤーであったデ・ロッシのカリスマ性も持ち合わせていないという点だった。
それが、「カピターノにはふさわしくない」というクルヴァ(ゴール裏のサポーター)の評価につながった。サイドで上下動を何度も繰り返してきたが、そういった献身的なプレーは批判的なサポーターの心には響かなかった。そうした声にフロレンツィは深く傷ついていた。
それが、故郷への帰還を遠ざけた理由かもしれない。路地裏でいつまでもボールを追いかける少年がそのまま大人になったようなフロレンツィには、その役割はあまりにも荷が重すぎた。