勝つために必要なことを徹底させるグラスナーの手腕
ここまではグラスナー体制での変化にフォーカスするために、あえて「攻撃」にテーマを絞って言及してきたが、オーストリア人指揮官は最大の目的である「試合に勝つこと」から逆算してチームとしての戦略を考えている。
勝利に必要なことを徹底させることは、誰しもができることではない。手段が目的化してしまう指導者も多い中で、グラスナーはあくまでも勝つことにこだわり続けてディテールを詰めている。
今季のクリスタル・パレスはリーグで2番目にポゼッション率(39.8%)が少ない。非保持の時間が増える傾向にある中で、最終ラインが安定しているのは彼らの強みの1つと言えるだろう。
自陣にブロックを敷いて守る際は5バックとダブルボランチでスペースを消し、ラクロワやマーク・グエイら守備で無理が効く選手が最後尾に控える。守護神ディーン・ヘンダーソンもハイパフォーマンスを継続しており、6節消化した時点での3失点はアーセナルと並んで最も少ない。
イングランド代表MFアダム・ウォートンやプレミアリーグに適応した鎌田大地のような中盤のリンクマンの質も高く、安定した守備を攻撃に繋げることができている。
その上でセットプレーにも力を入れている。昨季はプレミアリーグで2番目に多い16ゴールを“飛び道具”から奪っており、今季もすでに4ゴールを記録。リヴァプール戦の勝ち越しゴールもロングスローから生まれていた。
勝利にこだわるグラスナーのフットボールが今季の序盤戦の戦いに結果として出ているのはポジティブで、昨季のFAカップ制覇に続いて偉業を達成する可能性も十二分にある。これらは称賛に値するが、ピッチ外で抱えている問題から目を背けることができないのも事実だろう。