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コラム 2か月前

サッカー日本代表のポゼッションはたぶん無理。なぜW杯出場国に苦戦?「結構バラバラ」「やっぱりダメだし、ああいう状況では」【コラム】

シリーズ:コラム text by 加藤健一 photo by Shinya Tanaka

 サッカー日本代表はキリンチャレンジカップ2025でパラグアイ代表と対戦し、2-2で引き分けた。9月の2試合に続き、FIFAワールドカップ26出場国に対して2分1敗と勝利がない。なぜ圧倒的な強さを見せたアジア最終予選とは対照的に、ワールドカップ出場国に対しては結果が残せていないのか。選手たちの言葉から、原因を深堀する。(取材・文:加藤健一)

サッカー日本代表はこのままだとまずい

サッカー日本代表、田中碧
【写真:田中伸弥】

 FIFAワールドカップ26アジア最終予選では10試合を戦い、イラン代表と並んで18チーム中最多の勝ち点23を叩き出し、30得点はダントツ、3失点も最少の数字だった。

 その最終予選が6月に終わり、9月からはいよいよワールドカップ本大会に向けた強化に全振りとなったが、メキシコ代表に0-0で引き分け、アメリカ合衆国代表には2-0で敗れた。

 この2試合だけなら開催国相手に、アウェイで苦しんだというエクスキューズも通用するし、今回のパラグアイ代表戦は遠藤航や板倉滉、久保建英の不在を理由にすることもできる。ただ、アジア最終予選で表出したはずの課題をクリアできていないように映る。

 サッカー日本代表が、どこかおかしい。FIFAワールドカップ26アジア最終予選で見せた圧倒的な強さはどこに消えてしまったのだろうか。

 9月は2試合ともにゴールネットを揺らすことができなかったが、パラグアイ代表戦では2得点を記録した。一方で、アメリカ合衆国代表戦に続いて複数失点を喫している。

 先制点を許したのは21分の場面を振り返りたい。

 日本代表の全員が自陣に戻ってブロックを整える中、センターサークル内からパラグアイ代表MFダミアン・ボバディジャが浮き球のパスを相手DFラインの裏に落とす。ミゲル・アルミロンが斜めのランニングで瀬古歩夢の背後を取り、トラップから左足を振ってゴールネットを揺らした。

「結構バラバラで」「やっぱりダメだし、ああいう状況では…」

「1失点目もそうですが、ブロックを組んだときにやられるのはやっぱりダメだし、ああいう状況ではボールホルダーにプレッシャーにいかないといけない」

 とかく瀬古の対応やアルミロンの技巧にフォーカスされがちだが、田中の言うようにファーストディフェンダーにプレッシャーがかかっていないことが失点の一因になっていることは明らかだった。

 2失点目はフアン・カセレスのクロスをディエゴ・ゴメスが頭で合わせた形。瀬古と渡辺剛が被ってしまったことが最終的な穴となったが、カセレスがフリーでクロスを挙げられる状態を作ってしまっている。

 66分に南野拓実に代わってシャドーに入り、78分からは田中が務めていたボランチに入った鎌田大地も守備を課題に挙げた。

「ハマってなかったですね、全然。そもそも相手が余裕を持ってボールを持つようになったとき、結構バラバラで行っちゃっていた感じがある。守備が良くないと攻撃もうまくいかないし、守備の部分で今日は少し良くなかった」

 森保一監督が常々言っているのは、「いい守備からいい攻撃へ」である。現代サッカーにおいて、守備と攻撃を分けて考えることはできない。振り返れば、最終予選で日本代表は10試合で3失点しかしていない。これが2次予選から続いた日本代表の強さだったはずだ。

「いい守備からいい攻撃へ」のもう1つの論点は、その言葉通り守備から攻撃へのトランジションになる。

「現代サッカー的に崩してゴールというのはあんまりない」

 もちろん、守備全体がダメだったわけではない。堂安律と南野拓実の2シャドーの守備への切り替えは、欧州でもトップレベルと言っていいだろう。ファーストディフェンダーとして彼らが制限をかけることで、その後ろの佐野海舟のボール奪取能力が輝いた。

 そして、そこから前に推進力を持ってゴールに迫っていくプレーに可能性を感じた。この試合のチャンスといえば、右サイドのポケットへの侵入とセットプレー、そしてカウンターが相手ゴールを脅かす攻撃だった。

 田中は言う。

「たぶん一番チャンスになるのは奪ってからのショートカウンター。じっくりボールを持ったときと守備で相手が人数をうしろにかけてきたときに、自分たち(ボランチ)が出ていかないといけない部分もあった」

 ちなみに、最終予選ではオーストラリア代表戦に2試合とも勝てていない。つまり、直近3試合も合わせると、ワールドカップに出場する実力があるチームがある程度人数をかけて守ってきたとき、有効な打開策を見出せていないことになる。

 人数をかけて守る相手をこじ開けるのは難しい。田中は「あれだけ締められるとなかなか入れられない」と話していた。インドネシア代表や中国代表ならできても、日本代表と力が拮抗するようなチームには通用しない。

「現代サッカー的に崩してゴールというのはあんまりない。セットプレーだったり、奪われた後に全員で奪い返すとか、ロングボールのセカンドボールを拾ってショートカウンターとか。やっぱりスペースがある状況でチャンスが生まれると思うので、そこでいかにシュートまで行くかが重要」

 日本代表の1点目はまさに田中が言うような形だった。

 中村敬斗のクロスが通らず、相手のロングカウンターが発動するや否や、鈴木淳之介が寄せ、中村が脚を投げ出す。こぼれ球を佐野海舟がダイレクトで縦につけると、小川航基が反転して右足を振り抜く。無回転シュートをGKロベルト・フェルナンデスは懸命に弾いたが、ボールはゴールへと吸い込まれていった。

 相手がカウンターに出ようとしたところを、カウンタープレスで奪い返した形だった。

 田中の言うように、最終ラインから組み立ててフィニッシュまでつながる場面はそう多くない。また、南野は「僕の個人的な意見ですけど」と前置きしながら解決策を提示している。

「ポジショニングでカオスを起こして…」

「チームの約束事プラス、綺麗なポジションにつきすぎなくても、ポジショニングでカオスを起こして、自分はゴール前の反応の速度に自信があるし、そういうのを今日はもっと出しても良かった」

 南野は「チームのやりたいことを表現するのはもちろん当たり前」としたうえで、選手それぞれが状況に応じて自分の強みを出せるような選択をしていく必要性を痛感した。

 オーストラリア代表との2試合も含めたワールドカップ出場国5試合との対戦から見えたのは、ボール保持を基調にしたサッカーだけでは限界があるということだ。田中が言うように、これは日本代表に限らず、現代サッカーに主語を置き換えても通じる。

 鎌田が言うようにまずは守備でしっかりと相手の自由を奪う。田中の言うように相手の陣形が整っていないシチュエーションでしっかりとフィニッシュまで持ち込む。そして、南野が言うように、ピッチ上では約束事に縛られるのではなく、ときには臨機応変に判断して個の強みを出していく。

 それらが揃って初めて、優位に試合を運ぶことができるはずだ。反対に、ワールドカップ出場国レベルの相手にそれができなければ、たとえ日本代表より選手の質が落ちる相手であっても、苦戦を強いられることは痛いほどよくわかった。

 ボール保持から相手を崩そうとするサッカーで世界に挑むのはおそらく難しい。

(取材・文:加藤健一)

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【了】

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