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コラム 2か月前

【松井大輔が語る】ブラジル代表は引いたサッカー日本代表をどう崩したか?「そういった動きが染みついている」「日本もヒントを得て取り組めば…」

シリーズ:松井大輔が語る text by 川原宏樹 photo by Getty Images

 サッカー日本代表は14日、キリンチャレンジカップ2025でブラジル代表と対戦し、3-2で逆転勝利を収めた。歴史的快挙を成し遂げた日本代表が称賛される一方で、ブラジル代表は完全に引いた日本代表を即興的に崩して2得点を奪っている。ブラジル代表が見せた攻撃から、元サッカー日本代表で現在はFリーグ理事長を務める松井大輔氏は日本代表のさらなる伸びしろを見出す。(取材・文:川原宏樹)

ブラジル代表は「引いた相手を崩すのがうまい」

ブラジル代表FWガブリエウ・マルティネッリ
【写真:Getty Images】

――サッカーのブラジル戦を観た感想を教えてください。

「前半を見ていると、やっぱり大敗してしまうのかなって思っていました。後半になって日本代表は前線からプレッシャーをかけ出しました。すると、ブラジル代表にもミスは起こるものです。ただ、個人的には昔のようなブラジル代表ではないのかなっていう印象を受けたのも事実です。

 日本代表はすごく勝負強くなり頼もしく感じた一方で、ワールドカップ本大会だったらまた違ったのかもしれないとも感じていますし、ブラジル代表のメンバーが前半のままだったらどうなっていただろうって思っています。それでも日本代表は選手層の厚さを感じさせてくれましたし、戦い方もすばらしく伸びしろも感じさせてくれました」

――その試合のなかでよかったと感じた場面を教えてください。

「後半に入ってからの"攻める守り"です。0―2という状況もあったと思いますが、攻めにいくための守備を積極的に行なって、戦況をひっくり返した点はよかったですね」

――その他に印象的なシーンはありましたか?

「前半にブラジル代表が見せていた崩しは、今後の日本代表も参考にできると思います。前半を振り返ると、日本代表は引かされてしまっていました。ブラジル代表はそういう引いた相手を崩すのがうまいという印象を与える内容でした。

 最終ラインに5枚、その前に4枚を並べた日本代表のブロックに対し、その間の使いながら3人目の動きで崩しにきていました。ワンタッチ、ツータッチで素早くボールを回しながら3人目が絡んできて、見ていて素直におもしろかったですね。また、そのときに足裏でコントロールしている選手が多いことも目に留まりましたし、細かい動きで仕掛けてくるところは印象的でした。フットサルではよく言われていることですが、狭いスペースでボールを扱うときの足裏の有用性を改めて感じさせられました」

日本代表にはバリエーションが必要

――足裏コントロールについて詳しく教えてください。

「人が密集する狭いところで、思いどおりにボールを扱うのはかなり難易度が高くなります。究極は数センチという世界でせめぎ合うなか、足裏を使うと足にボールを密着させたままピタっと止められます。さらに、その後にボールを見ずにパスを出せたり、シームレスに次のプレーに移れるという利点があります。また、足裏でコントロールすると必然的にボールは足元にある状態になり、相手は寄せづらくなります。

 このようにボールを奪われづらくなるメリットがあるとはいえ、すべてにおいて足裏でコントロールすべきとは言いません。状況に応じて臨機応変に効果的な使い方をすべきだと思いますが、サッカーもフットサルのように狭いエリアでのプレーが求められる時代になっているので、積極的かつ意識的にもっと使ったほうがいい技術ですね」

――フットサルの技術の話になってしまいましたが、ブラジル代表の1点目もフットサルでよく見られるような崩し方でしたよね?

「そうですね。やっぱりブラジル代表は中を突くのがうまいことを印象づけられたゴールでした。得点シーンだけではありませんでしたが、3人目としてサイドバックがあそこまで飛び出してこられるのは脅威だと思います。一方で、日本代表の得点は相手のミス、クロス、コーナーキックでした。伊東純也はいいクロスを入れられるし、それに連動してゴール前にも他の選手が入ってきていました。それはそれで素晴らしい得点だったとは思いますが、そういった方法もありつつブラジル代表のように中からも崩していけるといったバリエーションがあるといいですよね。強豪といわれるチームは、やはりそのバリエーションを多く持っています」

ブラジル代表は「そういった動き方が染みついています」

――ブラジル代表のように中を突く攻撃をするためには何が必要ですか?

「3人目の動きがもっと必要になると思いました。ブラジル代表は最終ラインに5人を並べる日本代表の守備網のなかでも、ボールホルダーの顔が上がっているときは誰もが裏を狙っていました。

 2点目のシーンでも日本代表の守備は人数をかけてしっかりと固めている状況でしたが、マルティネッリに裏を取られました。日本代表の最終ラインはある程度そろっていましたし、上げ下げもちゃんとやっています。そういった状況下でも縦へ入れるパス、そこから連動した3人目の動きといったものがかみ合うと崩されてしまいます。

 ブラジル人選手は幼少期からストリートサッカーやフットサルに親しんできて、そういった動き方が染みついています。だから、代表チームのような活動期間の短いチームでも熟練したコンビネーションを見せられるのだと思いますし、そこがブラジルのすごいところですね」

――今回は結果的にそのブラジル代表に勝利しました。

「今の日本代表の選手らはポテンシャルが高いですし、本当に勝負強くなりました。ブラジル代表を相手に2点ビハインドの状況でひっくり返したのですから、頼もしいですよね。ただ、さらなる高みを目指すためにできることは、まだまだあると思います」

――そのひとつが先ほども話にあった攻撃のバリエーションを増やすということですね。

「奇しくもパラグアイ代表戦がそうでしたけど、攻撃が一辺倒だとどれだけスペシャルな選手がいても苦しくなるときがあります。これまでも鎌田大地の得点に代表されるように中央を突破したゴールを日本代表も生み出しています。だから、できるポテンシャルは持っているはずなのですが、大きなスペースがあってそこへ伊東純也のような速い選手が抜け出すことで生まれる決定機が多いように感じています。そのようなサイド攻撃を武器にしつつも、中央突破もできるチームになったほうが強いですよね」

短期的な方法と長期的な方法

――日本代表がバリエーションを増やすためには今後どうすべきだと思いますか?

「短期的な方法と長期的な方法があると思います。ワールドカップに間に合わせるには、ブラジル代表のように個々の即興性に頼るのは無理があります。ブラジルサッカー界のような歴史や文化が積み重なってはじめて成せる業ですから。

 ですから、ある程度のパターンを決めながら取り組んだほうがいいと思っています。たとえば、現時点でも伊東純也が縦に突破してみんなでゴール前に入るというようなパターンはいくつかあると思います。その他にも堂安律がボールを持ったとき、久保建英のとき、三笘薫のときといったように個人に頼ったパターンがあります。活動期間の短い代表チームなので、方法論としてはそうならざるを得ない事情もあります。

 とはいえ、サイドで個人技術に頼ったパターンに偏っているので、ボランチやサイドバックが入れた縦パスに連動して、できたスペースにシャドーの選手が抜け出すなど3人目の動きを使ったパターンはあっていいと思います。やはり裏へ抜けるという動きは重要ですから、状況にあわせて3人以上が流動的に動いて裏を取れると、もっと決定機が増えていくのではないでしょうか。おそらくですが、森保一監督や名波浩コーチらがそういった練習もしているはずです」

――それでは長期的な方法はどう考えていますか?

「ブラジルのように幼少期からの経験と共有になります。ブラジル人選手には、そうやって積み重ねてきた共通理解があります。ブラジル代表の試合を見ていると、根本はストリートサッカーやフットサルで培ってきたのだろうと思わせる場面がいくつも出てきます。

 僕もフットサルのプレー経験から1人称、2人称といったプレーではなく、3人称や4人称といった動きを共通理解のもとで行えるようになりました。そういった経験がある人とは少ないコミュニケーションでも連動できましたが、経験がない人とは困難でした。

 ブラジルは幼少期からそういった経験を積み重ねているので、即興的に行えてしまう選手が多いというのが強みですよね。スペインはそういったフットサルなどの個人戦術やグループ戦術をサッカーに落とし込んで、意識的に数的優位や位置的優位をつくり出すようにしています。日本もそういったところからヒントを得て取り組んでいけば、自ずとバリエーションは増えていくはずです」

ブラジル代表が見せていたフットサル戦術

――長期的な方法の具体案として、フットサルがおすすめということですね?

「そうですね。ブラジル代表の先制点で見られた縦の出し入れから3人目が抜け出すといったパターン、ブラジル代表が前半によく見せていた旋回や8の字の動きによるポジションチェンジ、日本代表の2点目の起点となったパラレラなどは、フットサルの基本的な戦術です。その他にもバスケのピック&ロールに似た戦術で、ボールホルダーのマーカーをブロックした後に空いたスペースへ走り込むブロック&コンティニューなど、サッカーに応用できる戦術がたくさん存在します。

 フットサルはコートも狭くプレーヤーも少ないですから、そのような機会はサッカーよりも多く得られます。フットサルのように狭いスペースでできれば、それよりも広いスペースが与えられるサッカーでもできますからね。とはいっても、サッカー独特の広大なスペースを使った戦術もありますから、どっちかと言わずサッカーもフットサルも両方をやればいいと考えています。幼少期のプレーヤーにもっとフットサルが普及できれば、10年後20年後の日本代表は即興的にコンビネーションを生み出せるようになっていると思います」

――その話を踏まえると、今度のフットサル日本代表とフットサルブラジル代表の試合が楽しみになりました。

「17日と19日に静岡県富士市の北里アリーナ富士で対戦予定です。足裏を使ったフットサルならではの技術なども楽しんでほしいですが、サッカーにも通ずる複数の連動した動きにも注目して見てもらいたいですね。このフットサルの代表戦を通して、フットサルのおもしろさや有用性を発見、認識してもらい、Fリーグも見てみたいと思ってもらえたら最高です。もちろん、Fリーグでも先に話したような戦術が詰まったプレーはたくさんありますから」

(取材・文:川原宏樹)

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【了】

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