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コラム 2か月前

【松井大輔が語る】「1対1の技術」何がブラジル代表は違うのか? 中田英寿から学んだ「論理的なヒデさんらしいアジャスト」

シリーズ:松井大輔が語る text by 川原宏樹 photo by Getty Images

 フットサル日本代表は、17日と19日に国際親善試合でブラジル代表と対戦し、0-4、2-3というスコアで連敗を喫した。14日にサッカー日本代表がブラジル代表に初勝利を挙げた快挙に続くことはできず。元サッカー日本代表で、現在はフットサルのFリーグ理事長を務める松井大輔氏に両競技に通じる両国の差と、それが生まれる背景を語ってもらった。(取材・文:川原宏樹)

日本代表とブラジル代表「あらゆる点で差がありましたよね」

中田英寿
【写真:Getty Images】

――フットサル日本代表もブラジル代表と対戦しましたが、その試合はどういった印象を持ちましたか?

「19日の試合ではテレビ放送の解説を行いましたが、日本代表が終盤に追い上げる展開ということもあり、会場はすごく盛り上がっていました。ただ、至るところでブラジル代表との差を感じる試合でもありました」

――サッカーでも差があるという話でしたよね。

「そうですね。サッカーのほうは勝ったとはいえ、フットサルも同じような点で差をあるのですが、まだまだ差がありました。プレーヤーの人数が少なくコートが狭い分その差が顕著に表れたのではないでしょうか」

――その差をより具体的に教えてください。

「ドリブルやコントロールなどボールを扱う基本的な技術から複数人の共通理解のもとでのグループによる動き、そしてどうやって相手に勝つかというチームの戦術など、あらゆる点で差がありましたよね。

 その中でも、1対1の技術に目を見張るものを感じて着目していました。攻撃面でのボールの扱い方はもちろんうまかったのですが、守備面でもプレッシャーのかけ方も厳しくて、よくわかっているなあと感心させられる場面が多かったです」

――サッカーの試合でもそういう場面はありましたよね。

「そうですね。相手と対峙したときに、体をどこに当てればバランスを崩すのかといったことを理解していて、ここぞというタイミングで実行していました。そういったプレーでは、あまり体の大小は関係ありません。サッカーでもフットサルでも、ブラジル代表の選手は体を当てる場所やタイミングが本当に絶妙でした」

「フットサルの場合は、その差が目立ってしまいましたね」

――いわゆるマリーシアということでしょうか?

「たしかに、少し前にはマリーシアと表現されていたようなプレーかもしれません。ですが、あからさまにファウルというわけではないですし、現代では当たり前のことになっています。体の当て方のほかにも腕の使い方など、どのタイミングでどこを押したら相手は嫌がってバランスを崩すのかを理解しています。

 しかも、それは守備面だけではなく、攻撃面でも大切になります。そのようなファウルにならない体の使い方や腕の使い方は、南米の選手が上手で特有のものがあります」

――攻撃面での体や腕の使い方を教えてください。

「たとえばボールをキープするときには、ボールを扱う足とは逆の手で相手の胸や肩を押さえて、できるだけボールと相手との距離が離れるようにします。ときには、それが肘であったり、腕全体になることもあります。

 僕の場合は右足にボールを置くことが多かったので、左腕をうまく使うように意識していました。相手が左からプレッシャーをかけてきたときは左腕で押さえながら相手の動きを制御して、押してくる力を利用して右方向へターンして逆を取っていましたね。

 フットサル代表の試合でも、特にブラジル代表のピトが上手でした。体も大きい左利きの選手なのですが、相手との距離をキープするために右腕をずっと上げていて、対峙する日本代表の選手は明らかに嫌がっていましたね」

「昔、ヒデさん(中田英寿)と話したことがあって…」

――そういった体の使い方など1対1の技術をレベルアップするために、どうすべきだと考えていますか?

「やはり、そういった相手との対戦を多く経験することではないでしょうか。もちろん、意識しながらやらなければ身につかないことではありますが、対峙する相手は個々で体の大きさが変わってきます。それに先にも言ったように南米特有であったりと、育った国や環境によってさまざまな使い方をしてきます。

 最終的なアジャストは個別になるのですが、対戦経験は大きな糧になります。サッカーの場合は多くの選手が海外でプレーするようになったので、差は縮められているように感じています。ですがフットサルの場合は、サッカーほど海外でのプレー経験のある選手は少ないので、その差が目立ってしまいましたね」

――これまでに、そのような体の使い方がうまいと思った選手は誰ですか?

「家長(昭博)選手はうまかったですね。やはり、スペインとか海外での経験が生きているのだと思います。昔、ヒデさん(中田英寿)と話したことがあって、手や腕をどこに当てればいいか、体をどこにぶつければいいかを練習中に探していたと言っていました。論理的なヒデさんらしいアジャスト方法で、見習うようにしましたよ。

 ボールをキープしているときに、倒れないということはすごく大事になってきます。倒れてしまうとファウルにならないかぎり相手に奪われてしまう可能性が高く、場所やタイミングによっては相手に大きなチャンスを与えかねません。フットサルの場合だと、確実にゴールに直結してしまいますから、より重要になりますよね」

なぜその差が生まれるのか?「ブラジル代表が攻撃に回ると…」

――続いて、フットサル代表の試合における攻撃面についてですが、ブラジル代表と日本代表では縦パスの成功率に差を感じました。なぜ、その差は生まれるのでしょうか?

「これまで話したとおり、ブラジル代表の守備がうまかったというはありますよね。相手に背負われた状態からでも体の当て方や腕の使い方、足の出し方でミスを誘発させていました。

 一方、ブラジル代表が攻撃に回ると、日本代表のプレッシング下においても顔が上がっている選手がほとんどでした。やっぱり、顔が上がっている選手に守備は飛び込みにくくなりますからね。そのうえで、ちょっとした動作や目でフェイントをかけるなど、細かい事でタイミングをずらしたり逆を取ったりしていました。日本代表も油断しているわけではなかったのでしょうが、そういったフェイントに対応しきれず隙が生じていたように思います」

――もう少し詳しい技術解説をお願いします。

「たとえば、顔を上げてボールを相手にさらしながらもすぐに触れる位置にキープします。相手が飛び込んできたらかわせますし、味方がいい位置取りをしたときにはすぐにパスを出せます。このように相手にとって危険につながるプレーを選択できる準備を整えておけば、相手は容易に飛び込めないですよね。まずは、このような体勢を素早く整えることが大切です」

――そのような縦パスの技術はサッカーにも応用できる部分でしょうか?

「フットサルの場合、縦パスを出す役割は主に最後尾の選手になります。さらに、GKへのバックパスといったルール上の制限もありますから、後ろ向きにプレーすることはほとんどありません。一方、サッカーの場合はボランチがその役割を担うことが多くなりますが、最終ラインの選手やGKにバックパスをするという選択肢もあります。そのせいか、ちょっとしたプレッシャーで後ろを向いてしまう選手が多いように感じています。

 サッカーでも縦パスを出す役割の選手が、常に顔を上げて前を向き縦パスを狙っていると守備にとっては恐怖です。イニエスタやシャビなどうまいと言われる選手は、やはり縦パスを出せる体の向きをつくるのが上手で常に狙っていましたよね。先ほども言いましたが、フットサルの場合は競技の特性もあって、縦パスを出す選手が後ろ向くという選択肢を持つことはほぼ皆無です。ですから、フットサルをやることで、知ることで、縦パスの技術は格段にレベルアップさせられると思います」

(取材・文:川原宏樹)

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【了】

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