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コラム 2週間前

すべてが報われた90分。スコットランド代表のW杯出場は「映画」を超えるストーリー。フットボールに熱狂する理由はそこにあった【コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

スコットランド代表
【写真:Getty Images】



 世界各地で行われている2026 FIFAワールドカップ(W杯) 北中米大会予選が佳境に入っている。すでに出場が決まった42ヵ国のうち、最も劇的な形でW杯行きの切符を掴んだのがスコットランド代表だろう。28年ぶりのW杯出場を確定させた、カオスであり、ドラマチックな90分間を振り返る。(文:安洋一郎)[2/2ページ]
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復活を印象づける執念のプレーの数々

 1-1で迎えた78分、この試合最初のコーナーキックから途中出場のFWローレンス・シャンクランド(ハーツ)が押し込んで勝ち越しのゴールを決める。

 彼はスランプを乗り越えて、11月の代表ウィークで復帰したばかりだった。

 一昨季にスコティッシュ・プレミアシップの得点王に輝いたシャンクランドだったが、昨季は4ゴールとまさかの大不振。1年間代表から遠ざかっていたが、復帰直後に大仕事をやってのけた。



 アシストしたルイス・ファーガソン(ボローニャ)は昨年4月に右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負っており、所属クラブでは現在もプレータイムを管理しての起用が続いている。

 3分後に再び追いつかれて窮地に立ったスコットランド代表だったが、長い暗黒期を味わってきた選手とタータン・アーミーは諦めなかった。

 6分のアディショナルタイムが表示されてからおよそ2分半が経過。デンマーク代表は守備固めを投入して1点を守りにきた中で、途中出場のDFキーラン・ティアニー(セルティック)がスコットランドの未来を変える。

スコットランドの未来を変えた2つのゴール

 ティアニーはボックス手前で相手のクリアミスに反応すると、ダイレクトで左足を一閃。ブロックに入ったデンマーク代表の選手の頭をかすめながらも、完璧な弾道のシュートがゴールネットに突き刺さった。

 28年ぶりのW杯出場に大きく近づくゴールを決めて“英雄”となった彼も、前所属のアーセナルでは怪我や戦術的な変更の余波を受けて構想外に近い扱いを受けていた。

 ティアニーはこの日もコンディションが万全ではなかったそうだ。

 加えて、右SBで先発出場していたDFアーロン・ヒッキー(ブレントフォード)も長期離脱からの復帰直後でプレータイム管理が必要な選手であり、急遽本職ではない右サイドで起用された。



 どんなに出場時間が短かろうが、本職ではないポジションだろうが、常に全力を尽くすのがティアニーの真骨頂である。

 昨季のアーセナルでもピッチに立てば、全力プレーでファンを沸かせた。このゴラッソに多くのグーナーが反応していたことが、彼のキャラクターを象徴している。

 いつ試合終了の笛が鳴ってもおかしくない90+8分、MFケニー・マクリーン(ノリッジ・シティ)がハーフウェイライン手前でボールをカットすると、現地実況の「シュート!!シュート!!」という声に反応するように左足を振り抜く。

 前に出ていたデンマーク代表GKカスパー・シュマイケルの頭上を越す約50mのロングシュートが決まると、ハムデン・パークは歓喜の渦に。そのまま試合終了のホイッスルが鳴り、28年ぶりのW杯出場が劇的な形で決まった。

 近年の低迷からW杯出場が「現実的な目標」ではなく、「夢」へと変わりつつあった中で、本拠地にて、ここまで感情が揺れ動く試合を展開し、最後は勝利を決定づけるゴールが決まったと同時に試合が終わる。

 脚本があるかのような、あまりにドラマチックな試合だった。

“諦めなかった”42歳ベテランGKの矜持

 最後に、この試合でゴールマウスを守った42歳のGKクレイグ・ゴードン(ハーツ)のコメントで締めようと思う。

 かつてサンダーランドやセルティックで正GKを務めていたことで知られる彼は、2004年から21年に渡って代表チームの一員としてプレーしてきた。

 彼もキャリアを通して挫折と復活を繰り返してきた選手だ。

 全盛期のサンダーランド時代に度重なる怪我でポジションを失い、2012年夏に同クラブを退団。そこから2年間を無所属のまま長い期間をリハビリに費やし、2014/15シーズンに加入したセルティックで復活を果たした。

 しかし、今シーズンは所属するハーツでの出場がゼロ。当初はデンマーク代表戦にも出場する予定はなかったが、代表の正GKであるアンガス・ガン(ノッティンガム・フォレスト)が負傷で選外となったことに伴い、16日のギリシャ代表戦で今季初出場を飾った。

 ゴードンはデンマーク代表戦後の『BBCスコットランド』のインタビューで驚きの事実を明かした。

「本当はこの夏にも引退をしようと思っていた。でも(スコットランド代表監督の)クラークがもう1年頑張れと言ってくれた。もしかすると君の力が必要になるかもしれないとね」



 スティーブ・クラーク監督が数ヶ月前に言った通りのことが起きたのだ。そして大ベテランは正GK不在のピンチを自らのセーブで救い、指揮官からの信頼に応えた。

 続けてゴードンは「僕は全部を諦めることもできた。(W杯出場を決めた)今夜の“あの瞬間”こそが、これまでのすべての失望や全ての努力、何年もかけて挑戦してきたすべての年月に意味があった。

 この瞬間のために700、800試合と戦ってきたのかもしれないね」と、目頭を熱くしながら感動に浸っていた。

 サッカー選手に限らず、多くの人が生きている中で壁にぶち当たる。43歳で初のW杯出場の可能性があるゴードンのようなケースは稀だろう。

 ただ、彼が自分を信頼してくれる人と出会い、自らも諦めなかったことで夢を現実にしたのは揺るぎない事実だ。

 その生き様を教訓に、何かを続けることの大切さを感じた人も多いのではないだろうか。

 さて、スコットランド代表が焦点を当てるのは来夏に控える28年ぶりのW杯だ。

 選手が初めて“サッカーの祭典“に立つ瞬間、そして夢の舞台で躍動する姿を目に焼きつけよう。

(文:安洋一郎)

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【了】

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