第105回天皇杯決勝の舞台で難敵ヴィッセル神戸を退け戴冠に輝いたFC町田ゼルビア。タイトル獲得を使命として昨夏に加入したMF中山雄太のアシストが流れを大きく引き寄せた。“練習通り100%”――。準備の質が違いを作ると語る彼のサッカー哲学を聞いた。(取材・文:石田達也)[1/2ページ]
FC町田ゼルビアが悲願達成!
22日、天皇杯 JFA第105回全日本サッカー選手権大会 決勝が国立競技場で行われ、FC町田ゼルビアがヴィッセル神戸を3-1で破り、悲願だったクラブ史上初となる主要タイトルを獲得した。
「何かひとつのタイトルを獲ろうとスタートしてきた中で、天皇杯という名誉ある大会を制覇し、来季のACL2出場権を獲得するという絵に描いたようなストーリーを選手たちが自分たちの力で手繰り寄せてくれました。最終的にタイトルを獲れたことに感謝したいです」
黒田剛監督は試合後の会見でそのように語り、選手たちの奮闘に労いの言葉を送った。
試合は開始6分に動いた。
「ウォーミングアップからコンディションが良いと思っていた。練習通りの100%、いつも通りの100%を出せるかが大事だと思っていたので準備がものをいったと思います」
そう語るMF中山雄太のアグレッシブなプレーが勝利を引き寄せた。
左サイドのスローインから、こぼれ球を拾った中山は鮮やかなダブルタッチを見せ、ディフェンダー3枚を交わすと左足でクロスを供給。勢いよく飛び込んだFW藤尾翔太がヘディングで合わせ、小さな弧を描いたボールがゴールネットに吸い込まれていった。
これを見届けた中山は大きなガッツポーズを取り、藤尾と抱擁し喜びを爆発させた。
「前半の15分までに必ず得点は動く」
「そこは感覚でいけると思っていました。クロスには“翔太に飛び込んで来て”と思っていて、上手く決めてくれました。
僕は時間が止まってボールが吸い込まれていったように見えた。ダブルタッチは自分のイメージの中でのコントロールでもあったので、クロスまでスムーズにいけました」
アシストを果たした中山は決して自分の手柄とはせず、「決めた翔太がヒーローです」と若きエースを称える。
一方の藤尾は次のように振り返る。
「優太君が持った時に絶対にクロスが上がると思っていました。キーパーの後ろに入るとパンチングされると思ったので、キーパーの前に体を投げ出す判断をして良かった。とにかく当てるだけでした」
早い時間帯での先制点がチームに勢いをもたらしたのだが、実は試合前に黒田監督はメンバーに予言のようなメッセージを残していた。
町田を率いて3年目だが、高校サッカーの指導者として青森山田高校を率いて3度の高校サッカー選手権のタイトルを手にしてきた名将でもある。
カテゴリーこそ違うが、自身の経験則で得た国立競技場や埼玉スタジアム2002でファイナルという重圧のかかった試合で感じてきたことを伝えていたのだ。
「前半の15分までに必ず得点は動く」。それが現実になった瞬間でもあった。
「準備の質や方向性も変えて、ハマった」
中山は「監督は試合前に、開始15分で試合が決まると。案の定そうなった」と驚きの表情を見せ、こう続けた。
「プロじゃなくても、青森山田は地区予選では“絶対に全国に出場しなければならない”という重圧と戦ってきました。その上で選手権でも優勝をしてきたし、その回数など(監督の)勝負師としての力は、すごいなと改めて思いました」
そして30分には、ゴール前約25メートルの位置でフリーキックのチャンスを掴む。これに中山が左足を振っていくが、これはGK前川黛也の好セーブに遭う。
「あれは失敗。練習では感覚がよかったんですけどね」と苦笑いを浮かべながら言う。しかし、この重要な一戦に臨むため心身ともに準備は万全だった。
「これは僕の哲学みたいな話で、準備に行き着き、大きな大会や大事な試合になればなるほど100%を出せない選手の方が多い。
いつものプレーができるかという準備が大事だと気付き、いつも以上のことをやろうとすると出せなかったり、浮き足立ったり…。その準備の質や方向性も変えて、ハマったと思いました」
32分に町田はMFミッチェル・デュークの絶妙なスルーパスからFW相馬勇紀が左足で流し込みリードを広げる。
ハーフタイムを迎えると神戸は後半頭からFW大迫勇也を投入。交代を足掛かりにして前線に起点作りをすることで巻き返しを狙うも、危険なシーンを作らせなかった。
中山はボランチとして攻守に冴えのあるプレーを見せ、相手のゴールキックでも競り負けない強さや球際での闘志をピッチで示した。
