イタリア代表はFIFAワールドカップ(W杯)26欧州予選でグループ2位に終わり、3大会連続でプレーオフに回ることになった。同予選最終節のノルウェー代表戦では、一矢報いるどころか、ホームで4失点大敗。実に70年ぶりの不名誉な記録も生み出してしまった。もはやイタリア代表は、他国が恐れる存在ではない。なぜ、これほど周囲との差がついたのか。そして、彼らに明るい未来は待っているのか。(文:佐藤徳和)[1/2ページ]
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70年ぶりの恥辱。イタリア国内はサッカー<テニス
11月16日、前イタリア代表監督のルチャーノ・スパレッティが姿を現したのは、ノルウェー代表との一戦が行われたミラノではなく、テニスのATPファイナルズが開催されていたトリノであった。
この日、多くのイタリア人にとっての関心は、FIFAワールドカップ(W杯)26欧州予選において、プレーオフ回避が絶望的となっていたカルチョのイタリア代表ではなく、世界の頂点を争うイタリアの大スター、ヤニク・シンネルに寄せられていた。
現ユヴェントス指揮官も、テニスの試合会場に姿を現し、宿敵スペインのカルロス・アルカラスを破って連覇を果たしたシンネルの一戦を満喫していた。18時に始まった試合が終わると、スパレッティはシンネルを出迎え、満面の笑みを浮かべて祝福。厚く抱擁を交わした。
一方、イタリア代表は、20時45分にサン・シーロでキックオフされたW杯欧州予選グループIの最終戦で、1-4と逆転負けを喫した。
9-0と大勝すれば、首位通過できる一縷の望みが残されていた中、開始11分、ピオ・エスポージトのゴールで先制。イタリアの勝利を信じた人は少なくなかったはずだ。
しかし後半、“本気”を出したノルウェーの返り討ちに遭った。
アントニオ・ヌサの同点弾を皮切りに、アーリング・ハーランドが2得点。最後は、かつてミランのプリマヴェーラ(下部組織)に在籍したヨルゲン・ストランド・ラーセンにダメ押しの一撃をくらった。ノルウェーの看板選手マルティン・ウーデゴールを欠いた状態で、イタリアは為す術なく敗れ去った。
0-3と敗れた6月6日のアウェイ戦を上回る屈辱。イタリアが国内で1試合4失点したのは、1955年5月29日に現スタディオ・オリンピコ・グランデ・トリノで開催された旧ユーゴスラヴィア戦で0-4と敗れて以来、実に70年ぶりの恥辱であった。
試合後、多くのメディアはシンネルの勝利を大きく報じ、イタリア代表の話題には、“腫れ物”に触れるのを避けるかのように、積極的に報じようとしなかった。
サッカーのアッズーリは、ノルウェーにだけでなく、テニスにも敗北してしまった。
ガットゥーゾ監督に咆哮する余力なし
それでもサン・シーロには、激しく打ちつける雨の中、6万9000人の大観衆が詰めかけた。2、3階席では12歳以下のチケットが5ユーロ(900円)というように、全体的に格安な価格設定もあって、子供たちの姿が目立った。
しかし、少年少女が目にしたのは、打ちひしがれた自国の代表選手たちだった。試合後、ブーイングを受けたジェンナーロ・イヴァン・ガットゥーゾ監督に咆哮する余力はもはやなかった。
「ファンのみなさんに謝罪したい。1-4のスコアは重い結果だ。前半は本当に良くて、本物のチームらしい内容だった。私自身が責任を取る。後半は前半より明らかに内容が落ちた。傷をなめるしかない」
敗因についてはこう分析する。
「むしろ私はずっとシュートを浴び続けて負けるほうがマシだった。前半を終えた時点では満足していたが、そのあとは……。前半45分からやり直すべきだ。重要なことがいくつかできていたが、後半は苦しんだ。後半は選手間の距離感が崩れてしまった。
前半はもっとコンパクトで、プレスに行くときは常に正しい位置にいた。だが、後半は相手にスペースを与え始め、ビルドアップの場面で何度かボールを失い、スルーパスを通され、自分たちのエリアまで押し込まれてしまった」
カレンダーを3日前に戻そう。13日、イタリア代表はモルドヴァとアウェイで対戦した。
ノルウェー戦まで中2日という日程の影響もあってか、この試合ではノルウェー戦でベンチスタート要員となった選手たちが先発に名を連ねた。唯一、ジャンルカ・マンチーニだけが、2試合続けてスタメン出場を果たした。
本来であれば、最終戦ではリッカルド・カラフィオーリが先発すると見られていたが、臀部の負傷が癒えず、試合前日に欠場が決定。代わって、マンチーニがノルウェー戦にも引き続き先発した。
またサンドロ・トナーリは、警告を受けていたこともあり、累積警告によるプレーオフの出場停止を避けるため、ノルウェー戦ではなく、モルドヴァ戦に出場した。
対戦相手のモルドヴァは、9月9日にノルウェーがホームで11-1と大勝を収めた相手であり、6試合で26失点を喫していた。
イタリアは前半30分までボール支配率83%、8本のシュートを打って圧倒し、ゴールラッシュが期待された。ところが、ゴールは試合終了直前まで待たなければならなかった。
もはやイタリアに畏敬の念を抱く国はほとんどない
88分にマンチーニが先制弾を叩き込み、アディショナルタイムにはエスポージトが追加点を挙げて2-0と勝利を収めたが、引き分けを逃れるのが精一杯だった。
かくして、もはや1位通過が絶望的となったノルウェーとの一戦は、矜持を懸けた戦いとなり、そして、その一戦でイタリアは自尊心をボロ雑巾のようにズタズタに引き裂かれた。28年ぶりのW杯出場を決めたノルウェーにとっての、イタリアは単なる引き立て役でしかなかった。
予選終了後、イタリアのご意見番、アッリーゴ・サッキは、『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューの中でこのように述べた。
「イタリアがW杯出場を逃したらどうなるかなんて、想像もつかない。ノルウェー戦の後半のようなプレーはあり得ない。3月に運命を左右する試合がある時に、果たして状況が変わっているのだろうか」
これまでプレーオフのたびに、多くの識者が「W杯に出られないなんて想像できない」と口を揃えてきたが、そんな事態も今回で3度目だ。プレーオフを毎回甘く見て、「我々はイタリアだ!」と精神論にすがった末に、敗退を繰り返してきた。もはやイタリアに畏敬の念を抱く国はほとんどない。
「個人のミスも、チーム全体のミスも目についた。このようなレベルで犯してはならないようなミスだ。後半にメンタル面での問題があったのかもしれない。選手は怯え、気持ちが折れ、勝つことにすら恐れを抱いたのかもしれない……。
だが、ノルウェー戦で我々が許した4失点すべてに、信じがたいミスがあったのは事実だ。セリエAの選手がするようなミスではない。守備はとにかく酷かった。
クロスを上げようとする相手に背を向けた者もいれば、ハーランドにドフリーでシュートさせた者もいた。ビルドアップのパスをミスした者、カウンターでフェイントに引っかかった者……。これではどうにもならない」
同点弾を喫しただけで、イタリアの選手はうなだれているように見えた。今のイタリアに「最後の最後まで戦う」という精神は感じられない。
