コモ1907の躍進が止まらない。ここまでセリエAで14試合を消化してわずか2敗。欧州コンペティション出場圏フィニッシュが現実味を帯びている。しかし、そんな好調なクラブであっても、すでにセスク・ファブレガス監督の後任を考えているという。一体なぜか。短期的な目標だけに縛られない、その取り組みとは。(文:佐藤徳和)[1/2ページ]
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驚きではないコモ1907の躍進
コモ1907の躍進が止まらない。
今シーズンは14試合を戦い、6勝6分け2敗。10月19日に行われた第7節では、ユヴェントスにホームで2-0と勝利。 “老貴婦人”から、実に73年ぶりとなる白星を手繰り寄せた。
現時点ではそのユーヴェ(7位)に勝り、6位につける。来季の欧州コンペティション出場の可能性は十分に高いだろう。
しかし、この快進撃は、全くの想定外の出来事ではない。
今夏の移籍市場ではASローマ、インテルを上回る1億740万ユーロ(約193.3億円)の補強を行い、今季に向けての本気度を存分に示していたからだ。そして、保有選手の市場評価額は2億8710万ユーロ(約516.6億円)と、セリエA全体7位に位置する。
オーナーを務めるのは、インドネシア三大財閥の一つであるジャルム・グループを率いる億万長者、ロバートとマイケルのハルトノ兄弟だ。
彼らはインドネシアで最も裕福な2人の大富豪であり、アメリカ合衆国の経済誌『フォーブス』によれば、総資産は520億ドル(8兆円超)にも達する。
イタリアサッカー界において群を抜く富を持つオーナーであり、世界でもトップクラスの資産規模を誇る。もはや残留争いを演じるようなクラブではなく、コモ1907の視線は確実に“世界”へと向けられている。
メディアからの注目を浴びるコモ1907のミルワン・スワルソ会長は、イタリア・メディア『Sky Sport』のインタビューでこのように語っている。
監督の枠を超えたセスクのサッカー哲学とは
「期待が高まっているのは当然のこと。恐らく、人々は以前よりも我々に多くを求めている。結構なお金を費やしたと言わなければいけないからね(笑)。
でも人々に理解してもらいたいのは、昨季、そしておそらく今季の初めに行った投資は、将来に向けた安定性と持続可能性を確保するためのものだということだ。
それは毎回の移籍市場で行うようなことではない。むしろこう言いたい。このような補強は終わったのだと。これが最も激しく積極的な補強の段階だった。今後はもっと実用的かつ現実的になるつもりだ」
いかに素晴らしい“素材”が揃っていても、それを料理できる腕利きのシェフがいなければ、料理の魅力は引き出されない。スペイン人監督のセスク・ファブレガスは、非常に特異な形で指導者としてのキャリアをスタートさせた。
最初は単なる選手としてコモ1907に加入し、すぐに監督へと転身し、そのうえクラブの株式も保有している稀有な監督だ。いわゆる“監督”という枠を超え、イングランド型のマネージャーに近い権限も持つ。
補強戦略やクラブの意思決定に深く関与しているのも、セリエAの他のクラブとは一線を画している。セリエAで1年目の昨季、チームを10位に導いた。
前半戦こそ苦戦を強いられたが、後半戦は徐々に順位を上げ、強固なチームを築き上げた。
そのセスクは今年5月、『Sky Sport』のインタビューで自身の「サッカー哲学」について言明している。
バルセロナのカンテラ(下部組織)で育ったセスクは、自身のサッカー哲学が、バルセロナを偉大なクラブにしたものと同じだということを、決して隠してこなかった。
すなわち、ボールポゼッション、高い重心、そしてボールを失った際のスピーディーかつ激しいプレッシングである。もっとも、これらの原則は、常に手元にいる選手たちに合わせて適応させる必要があるのだと彼は考えている。
2023年1月にOGCニースから獲得したルーカス・ダ・クーニャは、本来右ウィングだった選手だ。セスクは、このフランス人の適正を見抜き、守備的MFにコンバートしている。
そのダ・クーニャはセリエA昇格に貢献し、トップリーグでも新たな才能を遺憾なく発揮。今季はキャプテンにも抜擢された。
25万ユーロ(約4500万円)で獲得した24歳は、今では1500万ユーロ(約27億円)の値がつくまでになった。セスクの鑑識眼が高く評されるエピソードだ。
「我々は一度も『今季優勝する』『ヨーロッパに行く』とは言っていない」
2019年からコモ1907に携わるカルラルベルト・ルーディ・スポーツディレクターは、11月に行われた『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューで、ビッグクラブに劣らないトレーニングセンターを案内しながら、「セスクは、我々を別のレベルに引き上げてくれた」と答えた。
目先の成績だけを目指す監督であれば、選手の獲得を第一に望むはずだ。クラブの株を保有していることもあって、セスクはクラブの長期的ビジョンを考えることができるのであろう。
スワルソ会長はこう続ける。
「我々がセリエAに復帰してから2年も経っていない。これは我々にとって新しいステップであり、新たな挑戦だ。ファブレガスにとっても解決すべき新たな課題だが、私は彼と彼のスタッフを全面的に信頼している。仮にうまくいかなくても、それも人生の一部であり、サッカーの一部だ。
我々は一度も『今季優勝する』『ヨーロッパに行く』とは言っていない。今季も来季もそうだ。我々は学び、成長するためにここにいる。そしてファブレガスが言っているように、この旅を楽しむことを学ばなければならない。ファンとしても、クラブで働く者としてもそれは同じ思いだ」
夏には、ローマやインテルの後任候補に挙がり、実際に接触があったことも明るみに出たが、セスクはコモを離れることはなかった。
「我々はファブレガスと常に一体となって仕事をしている。彼から『出て行きたい』と言われたことは一度もない。ただ、どういう状況にあるのかを知りたいだけで、他のクラブとの交渉を申し出たことはない。
それゆえ、私は落ち着いていられた。あなたたち記者が、私に質問することで、ファブレガスについての噂を知ったものだ。我々はいつも、前のシーズンが終わる時点で次のシーズンの計画を立てていたので、彼が去りたがっているような兆候はまったくなかった」
だが、クラブは、起こり得る“いつか”にもすでに備えている。
スワルソ会長はこう主張する。

